2016年12月31日土曜日

【書籍推薦:地政学で見るブレトンウッズ体制終焉後の世界】『地政学で読む世界覇権2030』

https://honto.jp/netstore/pd-book_27644245.html

Wikipediaによると、地政学とは地理的な環境が国家に与

える政治的、軍事的、経済的な影響を巨視的な視点で研

究するものである。 イギリス、ドイツ、アメリカ合衆国等で

国家戦略に科学的根拠と正当性を与えることを目的とした。

と、なる。

本書は影のCIAと呼ばれる「ストラトフォー」の元幹部で

分析部門のバイスプレジデントを務めた地政学ストラテ

ジストによる、渾身で骨太、衝撃の世界情勢予測です。




本書を読んで痛感させられるのは、米国という国土の豊饒さ

と、生産財を低コストで運搬可能な河川へのアクセスが多数

存在するという強靭な地理的アドバンテージの恵みだ。他国

の多くが、居住に適した温帯でなかったり、標高差、河川管理

などに国家予算を回さなければならならいため、余剰キャッシ

ュを作りにくい。


米国はこれらの点を自然に(開発なしで)得ており、しかも現代

になるとシェールという天然資源の獲得と、3Dプリンターという

生産技術を組み合わせることで、優位性(生産財の原料供給を

他国に頼る必要がなく、低コストになる)を更に堅固にしている。

彼らはすでに必要なものを全て手に入れているのだ。


結果、予測されるのは米国の繁栄継続と国際政治への関与

率の低下した地球儀だ(完全に引きこもったアメリカです)。


表現を変えると、ブレトンウッズ体制の終焉だ。つまり、第二次

世界大戦時に、戦後は世界各国が自由な貿易を行って繁栄と

平和の基盤を作る一方で、米国が圧倒的な軍事力(特に海軍

のシーパワー投射能力)をもって保護する体制の提供が、徐々

に薄らいでゆき、各国の勢力均衡が崩れ、「次なる戦争」が幕

を開く世界が登場する(各国は自前で生存を戦うことになる)。


地球儀で見る海洋国家と陸上国家


本書の9章から15章にかけ、世界各国の将来情勢予測がされて

おり、これからの地球儀と国際報道を見ていく上での「俯瞰図」に

なると思います。 ロシア、トルコ、パキスタン、などの国が地理的

なデメリットで苦悩する歴史を知るだけでも明日への教養になる

はずです(特に製造王国ドイツが意外な弱さを抱える点など)。


しかし、地政学は民族性やイデオロギーを除外して分析研究・予

測するものなことと、結果予測は戦略の技術ではあるが、戦略作

成プロセス自体ではないことを念頭に読んでほしい。 『ストーリー

としての競争戦略』の一節を借りれば、「機会は外在的な環境では

なくて、自らの戦略ストーリーの中にある」(p.354)であって、米国が

不在になる世界を悲観か楽観かで見ても、答えは出ないからだ。


来年のことを言うと鬼が笑う? 「鬼」の意味は奥深い。


著者は日本が将来(アメリカの世界関与が低下した世界で)、資源

の確保のために、サハリン及び中国東北部へと軍事力を行使する

シナリオを提示しているが、これは米国が相当のモンロー主義的に

なったときの、「可能性としてあり得るオプション」と見るべきだろう。


年越しのコタツのなかで、ゆっくり読むのにお勧めの一冊です。

本年の更新はこれで終わりですが、皆さん、良いお年を!

ありがとうございました。




2016年12月29日木曜日

【グルメ散策:梅田の地下で楽しめる北欧カフェの味と遊び心】 nord kaffe ノードカフェ大阪駅前第3ビル店


世界の国別一人あたりコーヒー消費量において、日本は第14位。

首位はルクセンブルクで、第2位~第4位はフィンランド、デンマー

ク、ノルウェーと、北欧の国々が続いています。やはり、暗くて長い

冬が続く北欧にとって屋内の温かい一杯は大事な時間を演出する

のに欠かせない、ということでしょうか。 


本日は梅田の地下で北欧の雰囲気を楽しめるお店を紹介します。





梅田にある大阪駅前第3ビルの地下2階

の、ノードカフェさんへ。店内は北欧らしい

素朴でスタイリッシュな作りです。





もちっふわっ、の北欧ベーグルです。

ポテトとプチトマトと玉ねぎ等のサラダ。

選べるスープでミネストローネのセットに

しました。 トッピングにクリームチーズ。




切れ込みを入れて、クリームチーズを

塗って、パクっと頬張ると柔らかなベー

グルの自然な甘さに、クリームチーズの

旨味とコクが協奏して幸せになります。


北欧らしく、木製のスプーンとフォークに

は、愛嬌のある顔のデザインが。寒さの

なか過ごすにはユーモアが大切ですね。

心が温かくなります。




こういう遊び心のあるスプーンとフォークで食べる、サラダと

ミネストローネの美味しさと温もりはこれまた格別ですね。



nord kaffe ノードカフェ

〒530-0001 
大阪府大阪市北区梅田1-1-3 B2
TEL 06-6450-0136
 

2016年12月27日火曜日

【洋画推薦:使命か執念か?対テロ戦争の歴史の転換点】『ゼロ・ダーク・サーティー』(2012年)

もとより、基本的に映画はフィクションである。


あのフェデリゴ・フェリーニの言葉を借りると、「虚構には、

日常的で見せ掛けの現実よりも、遥かに深い真実味があ

る。本物でなければならないのは、見たり、表現したりする

時に経験する感情である」。極論を言えば、映画は芸術と

言う以前に、「面白い虚構で俗世間の見世物」ですと言う

ことですね。

ならば、政治的色彩のある戦争作品はどうなるか?




本作品『ゼロ・ダーク・サーティ』は対テロ戦争の転換点とされる、2011年

5月2日のビンラディン殺害作戦達成の経緯を描くサスペンス作品です。

2013年度アカデミー賞音響編集賞受賞作品。


米国同時多発テロ後、巨額の資源を投入しながらもいまだビンラディン

の居所を発見出来ない、CIAのパキスタン支局に若き分析官のマヤが

配属される。情報を引き出すための凄惨な拷問現場、自爆テロによる

同僚の死、無能な上層部の対応などを乗り越えながら、パキスタンの

地方都市アボッタバードにあるビンラディンの潜伏先を遂に発見する。


ステルス型のUH-60ブラック・ホークが海軍対テロ特殊部隊を乗せて

基地を発進した運命の時刻は00:30(ゼロ・ダーク・サーティー)・・・




キャスリン・ビグロー監督によるドキュメント

風の演出と、まるで戦闘現場を目の前で見

ているような夜間戦闘シーンの静寂さと緊

張感は観客に歴史の「転換点」を痛烈に伝

えてきます。もちろん、本作を対テロ戦争の

プロパガンダ映画とする向きもあるだろう。


しかし、フェリーニの言葉を再び借りるなら

「本物でなければならないのは、見たり、表

現したりする時に経験する感情である」。主

人公のマヤが使命感と執念の境目で任務

を遂行し、ビンラディンの死を確認し、帰国

便内で涙する姿は空虚な現実の象徴だ。





本作は、あのビンラディンの追跡・殺害という、政治的要素の

極めて強い要素のあるテーマを扱いながら政治色よりもむし

ろ、孤高のヒロインがビンラディンという「マクガフィン」に振り

回され、苦悩する様相を技巧表現することで、政治色になる

のを避けながら「対テロ戦争の詳細」を徹頭徹尾描いている

ところが妙味と思います。



ビグロー監督が得意とする、戦場と諜報の世界に生きている

プロフェッショナルたちを臨場感たっぷりにハードに描写する

特に終盤の殺害任務を帯びた特殊部隊の侵入・戦闘シーン

は、ナイトビジョンの視点も交えつつ「虚構と現実の交差点」

のようで視聴者を「緊迫の作戦現場」に連れていってくれます。



尚、ここで「マクガフィン」とは作品を動かす上で重要であるも

のの、それがそうであるという理由や必然性が存在しないも

のや、代替出来るもの、を意味します。弱者の戦略たるテロ

リズムは言うまでもなく、誰によってでも代替されるものです。


あれから世界はどれほど変化したか?

あれから世界はどれほど平穏になったのか?


繰り返しになりますがこの答えは、主人公の彼女が帰国便の

輸送機内で涙したことに尽きる、と思う。


対テロ戦争の裏側を描いたサスペンスアクションとして秀逸な

お勧めの一本です。


2016年12月21日水曜日

【書籍推薦:大丸心斎橋店をリスペクトするレトロイラストと短編漫画集】 『百貨店ワルツ』

https://honto.jp/netstore/pd-book_27600153.html

特に思い出深いデパートの一つに、大丸心斎橋店が

あります。

ウィリアム・メレル・ヴォーリズ設計の本館は、ゴシッ

ク風ながらもどこかオリエンタルなスタイルで、豪華

な装飾の店内に入ると、日常から一気に異世界へ

引き込まれるような感覚を覚えたものです。

(p.114 あとかぎ)






デパートと言うと、皆さんはどう思われるだろう?


楠木建さんの『ストーリーとしての競争戦略』の一説を拝借すると、1960年

代の小売業の王様で「家族で半日楽しめる行楽地」の最右翼であったが

エンターテイメントが増えた近年は一環して長期低落傾向のイメージになる

と思います(経済史的にはで、他意はありません)。


一方、大正・初期昭和レトロの世界観に心を躍らせる方もいるでしょう。
 


大丸心斎橋店(改築中前)















本書は虚構の20世紀初頭の「三紅百貨店」を舞台にしたイラスト

及び短編漫画集です。近代ロマンと和風色を基調にしたモダンで

ロマンティックで艶やかで美麗なレディたちが描かれてあり、読者

を追憶的(ノスタルジック)な世界へぐいぐい引き込んでくれます。

本書は「読みもの」というよりかは、「観るもの」に近い気がします。 



読んでいて感じさせるのは懐古趣味的でいて、作者が

大丸心斎橋の店で感じた「異世界」の美的感覚を現代

解釈しながらリスペクトしようとする純朴な姿勢ですね


レディたちだけでなく販売品の描写も美しく、まるで百貨

店の紹介カタログを読んだり、ウィンドウショッピングを

しているような気分になります。また、蛇腹格子の内扉を

開閉する手動式エレベータ(昇降機)をお客様にとっては

イベントであったとする本質を捉えた説明があって憎い。




郷愁(ノスタルジー)と空想(ファンタジー)は真逆の関係であるはず

なのですが、実は共通する一つの世界像にあります。なぜなら郷愁

も、空想も「今ここでは希少なもの」を飛翔させて解釈しようとするこ

とだからです(モダンガールや販売品の美麗さや艶やかさなど)。


百貨店はその飛躍した世界観が交差する夢なことが伝わる一冊です。



2016年12月15日木曜日

【書籍推薦:清掃技術サービスはおもてなしです】 『新幹線お掃除の天使たち』


https://honto.jp/netstore/pd-book.html?prdid=25308883
「新幹線劇場」には、三つの役が必要です。
役者。

大道具と小道具。

案内。

そして、

この劇場の主役は、なんといってもお客様です。

すべてのお客さまに新幹線の旅を心地よく感じてもらえるように。

私たちの夢はその心と共にあります。(p.131)



清掃業はいわゆる「3K」の職業と言われる。


僕も職務柄、経験があるのだが、施設の清掃洗浄作業は、基本的には

キツイ、汚い、危険が付きまとう。もちろん、サニテーション(衛生管理)

は、飲食・施設・食品業界の品質保証に直結するので、手を抜くなどは

ご法度ですが、「出来ていて当たり前の品質」なので、なかなか世間の

持つイメージと、そこで働く個人のモチベーションが高まりにくいのが現

状と思います。
 

総合的品質管理(TQM)の考えを借りれば、お客様の期待を超える「魅

力的品質」でないと、「3K」のイメージの壁を越えることは難しいのです

ただし、現場(オペレーション)は座学で習えることは少なく、そもそもと

して、オペレーションが戦略たり得るのかという疑問を持つと思います


著者の遠藤功氏は、早稲田大学ビジネススクール教授で、現場力の実

践的な研究(オペレーション戦略)を行っている人です。


鉄道整備株式会社。通称テッセイの名前で親しまれている会社は、メデ

ィア報道で見られたかたも多いと思います。清掃の手際の良さ、礼儀の

良さも半端なし、整列してのお辞儀で清掃完了のお出迎え、かっこいい

など、様々な方面(特にネット上も)から賞賛の声が集まっていますね。


わずか7分程度で新幹線車内を清掃し、「おもてなし」するチームです。

見事にオペレーション(現場力)を経営戦略として成り立たせています。



清掃作業を終了後に一礼して乗客を迎えるスタッフ



この本で、「新幹線お掃除の天使たち」と呼ばれる従業員たちの会社は

今でこそ新幹線清掃のプロフェッショナルとして今でこそ名を馳せていま

すが、昔は「しょせん自分たちは清掃員」という意識がどんよりと蔓延して

いるように見える、会社だったと、テッセイの仕掛け人の矢部輝夫さんは

着任当初に思ったという節は、感動品質は一日でならずを感じさせます


現場クルーが経験した心温まるストーリーの第1部と、テッセイが生まれ

変わるまでの2500日を描いた第2部を通して、どのようにして「世界一の

現場力」が生まれたかを読み進めるうちに、スタッフの心優しさや清掃の

プロ意識を通じてきっとあなたも、また新幹線に乗りたくなると思います。


泥酔して従業員にイタズラをし、シートでぐるぐる巻きに処置された客の

話もありますが(苦)、こんな機微を通して、オペレーション戦略(現場)

の経営学と、温かい人間味を学べることが出来るお勧めの一冊です。


2016年12月11日日曜日

【書籍推薦:英国チャンネル諸島の人間賛歌】 『ガーンジー島の読書会』


以前、『プリズン・ブック・クラブ』の記事を書いたとき、同書で

実際に登場人物たちが読んでいた、この本を知って、興味を

持ちました。
 
 

https://honto.jp/netstore/pd-book.html?prdid=25937654

舞台は1940年代初頭の英国チャンネル諸島(英仏海峡の

間にある島々です)を構成する2番目に大きな島のガーン

ジーが舞台です。1940年7月から1945年5月9日まで

ナチス・ドイツの占領下にありました。(尚、チャネル諸島

は最大時4万人が駐留して、要塞化されていたとのこと)


当初こそ、丁重な態度であった占領軍も、戦時下における

食糧の慢性的な不足、衛生用品の欠如の他、外出禁止時

間制限など、ナチスの統制は次第に厳しくなっていきます。



主人公のジュリエット・アシュトンは作家で、戦後、あること

からガーンジー島の人たちと文通を始めることとなります。

とある日に、彼女は島の占領時代にエリザベスという女性

が仲間と外出時間規制を破った言い訳として、ナチに「ガ

ーンジー読書会の帰りです」というウソを言い、あとで実際

に、島民の拠り所となる読書会を創設したことを知ります。

ここから物語りは、個性豊かな登場人物たちをからめて

ぐいぐいと進んで行きます。




 

 戦時下の勇気、奴隷労働や収容所、食糧の欠乏という戦争の

 悲惨な現実の下にあってなんとか生きようとする人の姿や、そ

 んな苦しさのなかでも、ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』

 や、マルクス・アウレリウス『自省録』、トマス・カーライル『過去

 と現在』などの著作を読み、生きる糧にしようとする島民の姿

 は、読書を愛する全てのものにとって幸福感を与えてくれます。


  読書は心の飢えを満たす行為なんです、やはり。


 ほぼ全編が、文通のやりとり形式で描かれる小説なので、読み

 進めていくうちに、英仏海峡の潮風を感じながら、登場人物たち

 の内情を知って、親近感をもっていくようになっている作品です

 電子メールやLINE全盛の現代だからこそ、忘れているものが

 ここに詰まっています


 最後に、ガーンジー島を訪れた主人公が見つけた結論とは?
 
 こういうユーモラスな視点でのオチって英国らしいです。


 あと、あのオスカー・ワイルドが憎らしい形で登場しており、作者
 
 はアメリカ人ですが英国文化好きにとって思わずニンマリさせら

 れる後半の物語を演出しています(このセンスには脱帽した)。

2016年12月10日土曜日

【MOLESKIN】 僕のモレスキンノート初活用挑戦記録


伝説のノートと言われるのが、「モレスキン

誰かが俗に「意識高い系のノート」なんて言うけど、さておき(笑)

あのヘミングウェイやピカソも愛用したノートです。

長い間どのように使うのかと、迷った末に、本年より挑戦しました!



https://www.moleskine.co.jp/



使い方が自由自在なのが、言うまでもなくモレスキンの特徴です。

とりあえず・・・・・

汎用性のある網掛けタイプでソフトカバーのノートを購入しました。


気に留めたことをメモったり、資格学習などの資料を切り貼りして

要点をまとめたり、ささっと予定を書き込んだりしたりや、美術鑑賞

のとき、気に入った作品をささっと素人デッサンしたりとしたりです。


システム系手帳のように機能を限定していないのであとで読み返した

ときに、「一冊のノートで総合的に今ままでの情報を」把握して、次の

アイデアとか何かが湧く自由な使いかたがモレスキンの魅力だなぁ、

と思いました。






まぁ思うに、自分なりのモレスキンノートのページが積み重なっていくこ

とで、世界に一冊だけの自分のための「ブック」を完成させていく楽しさ

は、まるで「手塩にかけて育てていく」ような醍醐味さがありました。


僕は専門職なので品質マネジメントシステムから労働安全衛生法やら

のエッセンスを学習&貼り付けすることで、自分用テキスト(スキマスイ

ッチ風に言うならボクノートかな)が出来てきましたのが最近の状況で

す(あまり面白くない例えでしたが)。グーグルカレンダーを縮小印刷

して貼ることでスケジュール帳を作ったりもしてみました






ビジネス本も単に読むより、メモを取りながら、 気に入ったところをコピー

して貼り付けて読書メモをつくってみました。あとで続きを読んでいくときの

振り返り(前回の思い出し)になりました。他にはA4サイズのPDF資料を

60%のサイズに縮小すると、モレスキンのサイズに収まったのでこれらも

貼り付けることで、部分的に携帯したい資料が出たときのファイルとしても

使っています。






次々と色々な要素が出るので、最終成果がどうなることやらです。

半分、落書き帳になりそうですけど(苦)ともあれ、モレスキンノート

は、作業支援機能はもちろんながら、自己表現をするための、自由

な場所でありますし、使えば使うほど愛着がホント湧いてきますね。


2016年12月4日日曜日

【美術鑑賞:キャンバスの中で生きている本質】 阪急百貨店 『ホキ美術館名品展』


一見すると写真に見えますが、実は絵画なのです!

細密な写実絵画です。



島村 信之 《日差し》 2009年



最近、知ったのですが、千葉県には日本初の写実絵画専門の

美術館になる、ホキ美術館があるとのこと。

阪急百貨店ミュージアムに今回、『ホキ美術館名品展』が来た

ので、さっそく脚を運んできました。






15世紀の初頭、レオナルド・ダ・ヴィンチを頂点に完成されたと言われる

のが写実絵画。しかし、19世紀初頭に写真が発明されますと写実絵画

の価値が下がり、抽象絵画をしないものは画家にあらざるという世相が

表れたこともあって、画家から写真家に転向する人も続出したそうです。



羽田祐 《サン・ジミニアーノ初夏》 2012
原雅幸 《光る海》 2010


 
ホキ美術館公式サイトの説明を借りると、「写実とは、目の前にある対象を

再現することでも模倣することでもなく、その対象のずっと奥にあるものと

出合うこと」、「物事の本質を見つめ続け、存在を描くこと」となっている。



話は少し変わるがボタニカルアート(植物学的絵画)というジャンルがある。

産業革命以前より専門誌も発行され続けており(英国キュー植物園)その

理由のひとつが、人間の目だけが本質をサンプリングし、描くことで第三者

に「本質」を伝えることが出来る(もちろん、ボタニカルアートは専門の教練と

学識が必要となってくるが)からだ。カメラは写すことしかできない、と。



このことは、写実絵画が現代で問われている役割にも繋がっていると思う。

僕の絵心は、ノートに雑な鉛筆スケッチが関の山(笑)ですが、3ヶ月から

長いもので1年をかけて描かれる写実海外の世界で、皆さんも芸術の冬

に、心揺さぶられてはどうでしょうか?






2016年12月2日金曜日

【書籍推薦:2016年度ノーベル文学賞ボブ・ディランの源流本】 ジャック・ケルアック 『オン・ザ・ロード』



近所のガーデンの隠れるような小道で綺麗な花が咲いていた。

人生の路上(ロード)は至るところに枝道がある






魯迅は小説『故郷』の結びで有名な、「思うに希望とは、もともとあるもの

とも言えぬし、ないものとも言えない。 それは地上の道のようなもので

ある。 もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になる

のだ」と、言った。


けど、「道」(ロード)の奥深さは近代中国文学に限らない。


本日紹介するのは、「Simple」読書会大阪に参加したときからの一冊

で、あのノーベル賞授賞式不参加のボブ・ディラン氏が「僕の人生を

変えた本」と言う、ジャック・ケルアックの小説「オン・ザ・ロード」です。

話は著者の自伝的内容となっている。



時は60年代のアメリカ。経済的には何不自由ない生活と中産階級

とホワイトカラー層の厚みが広がり始めた時代ですが、若者たちは

この現況に背中を向けるカウンターカルチャーの扉が開いた広大な

アメリカ大陸を、語り手である若い作家のサルとその親友のディーン

は、叛逆的に自由を求めてヒッチハイクなどで疾駆する。






彼らはニューヨークからサンフランシスコへ、黒人音楽の聖地で

あるニューオリンズへ、果ては大陸を南下してメキシコ・シティへ。

自由のまま、行き当たりばったりで、まるで季節労働者(ホーボ)

のように流れて移ろいゆく路上(ロード)の男の人生が描かれる。

飲んだり、語ったり、ジャズに、行きずりの恋やセックスをしたり。


終盤のある晩、マディソン街の角で、朝の三時に彼らは話し込む。


「なんでも好きなことをやっていい、そんなのはこれっぽちも気にならない
ってな。でもな、おい、年取ってくると、気になることが積みあがってくる。
いつの日か、おまえとおれは夜明けによろよろとそこらの路地にさまよい
こんでゴミの缶をのぞくことになるんだよ」

「かもな。なりたきゃ、もちろん、なれる、そういうことだ。そういう終わり方
も悪くないよ。政治家とか金持ちといった他人どもがなにを望もうが、そん
なのとは関わりなしで一生生きる。だれも邪魔しない、すいすいと自分の
道を進めるぞ」 ( p.400 )


この小説は、ストーリーというよりも、アメリカの叙事詩のような

気がする。リスクを取って開拓民が土地を開き、時代は流れて

戦後の若者たちは、既存に囚われずに「自分の内にある何か」

を開拓していく。何だってできる、自分達でやる、というロックン

ロールな精神(パンク精神)の源流と、冗長ながらも、広大なアメ

リカ大陸の情景を映し出す文章は、なんとも広大で不思議な魅

力に満ち溢れている。


正直、どの章から読んでも悪くないと思う。


主人公達は、昔に奴隷を脱した黒人たちががギターとブルーズ

を携えて悠々として旅していたような原初的な光景に憧れてたの

だろうか、と思ってしまった(奔放さの中にあるものこそ人間性の

解放であるという思想だろうか)。


働き方改革が叫ばれるなかで、「路上」(ロード)で生きる男たちの

姿は僕らを旅に誘うし、何か覚悟に似たものを迫らせる気がする。



2016年11月27日日曜日

【洋楽雑感:舞台に求められる男のセクシーさと田舎臭さ】 ブライアン・アダムス『ゲット・アップ』



前回、カナダのコリンズ・ベイ刑務所の読書会の記事を書いたが

せっかくなので同じくカナダ繋がりのテーマで洋楽の話をしたい。


カナダのオンタリオ州キングストン出身が生んだロックン・ローラー

のブライアン・アダムスです。






第68回アカデミー賞歌曲賞、グラミー賞、母国カナダの最高栄誉

ジュノー賞は18回受賞の「殿堂入り」など等であるのだが、80年の

デビューから35年目、彼は今も、1年の1/3にあたる120日間はど

こかの国の舞台でギターを奏でるロッカーで(57歳で年寄り扱いは

ロックンローラーには厳禁ですよ!)在り続けている。


映画『三銃士』のテーマ曲で耳にした人も多いと思う。お気づきのと

おり、彼の甘いルックスは元より、歌声の「セクシー」さはリスナーを

数多く引きつけてきた。


2015年に発売された7年ぶりの新作アルバム『ゲット・アップ』からの

曲で『ブランド・ニュー・デイ』を紹介しましょう。






起きて 起きて 起きて 私の言うことを聞いて
目を覚まして 覚まして 覚まして
もっといい方法を見つけるの
起きて 起きて 起きて 真新しい一日がやってきたのよ
だから彼はどこかに行こうと東行きの貨物列車を止めた


普通、ソフトでセクシーな声質であるなら、ロックとしてあまり適合しない

と思えるかもしれないし、彼の曲は基本的に4/4拍子リズムでギターが

次々に刻んでいく古典的なアメリカ・ロックであるのだが、どうも「古臭い」

の一言では、片付けられない魅力を放っている。


まぁ聴いてのとおり、歌詞も「田舎臭い」カップルが悩む一幕である。


これは、才能、自己鍛錬、そして自信の為せる技(仕事達成の基本的要

素でもある)としか思えないし、逆に上記の演奏手法は今も新鮮さと即効

性を失わわず、リスナーにスリルさえ感じさせられるものということになる。

これが、ロックンロールということなのだろう。


彼は今も変わらず18歳の青春を生きるシンガー・ソングライターですね。


2016年11月26日土曜日

【書籍推薦:受刑者が夢中になるはクスリではなく読書会】 『プリズン・ブック・クラブ』



読書は、心の飢えを満たす行為だと思う

誰かも自分と同じように悩んでいる、あんなふうに生きたい、仕事や

人生の答えを探したい、笑って幸せになりたい、というふうにページ

をめくると、貴方の知らない「世界と人生」が貴方の前の前で何事か

を示唆してくれる。


http://honto.jp/netstore/pd-book_28008369.html



どれが好きっていうのではなくて、本を一冊読むたびに、自分のなか

の窓が開く感じなんだな。どの物語にも、それぞれきびしい状況が

描かれてるから、それを読むと自分の人生が細かいところまではっ

きり見えてくる。そんなふうに、これまで読んだ本全部がいまの自分

を作ってくれたし、人生の見方も教えてくれたんだ(p.122)


今回紹介する本は、「simple」読書会 大阪さんで出会った一冊なので

すが、カナダのコリンズ・ベイ刑務所に実際にある読書会の一年を追

ったノンフィクション『プリズン・ブック・クラブ』です。驚くなかれ、様々な

前歴を持つ受刑者が集まる刑務所のなかでの読書会なんです。


著者のアン・ウォームズリーは全米雑誌賞を4度受賞するなどの栄光

に輝くジャーナリストで、本書は著者が投資顧問会社の主任ライター

職を解雇されたあと、友人とのウォーキングで刑務所の読書会プロ

ジェクトに選書役として参加しないか、と誘われるところから始まる。


注目すべきは、読書会が刑務所の更正プログラムで強制参加している

ものではなく、受刑者の自由意思で参加するプログラムであることだ。

正直、私は服役者更正については門外漢だが、この作品を読んでいる

と読書には「更正」を助ける力があるのでは思えてくる。


彼らは、『怒りの葡萄』、『賢者の贈りもの』、『またの名をグレイス』など

の名作を通して、自らの喪失感や怒り、罪の意識について吐露したり、

作品に対する鋭い意見を投げたり、異なる意見の持ち主の話にも耳を

傾けるようになっていく。そればかりか、通路や体重測定の場で、課題

の本についてどう思ったか、 と話したりするのだやがて、仮釈放され

た者たちの中には社会更正施設で働きながらも地元図書館で読書会

への参加希望するものも現れる・・・・


これは、穏やかな性格で非常に調和を重んじるとされるカナダの国民

性も関係していて、他の国や社会環境ではそうはいかない、とする考

えもあるだろう。実際、作中でも囚人のトラブルで読書会が延期になっ

たりすることが語られる。


しかし、アリストテレスが言ったように「すべて人間は生まれながらにして

知らんことを欲す」(『形而上学』)だし、読書会の醍醐味は世界の見方や

意識を教える手伝いをしてくれることにある。彼らは正に、読書会に夢中

になりながら、少しずつながら「心の中で何かが」変化していったのだ。


本好きや読書会が好きな人には、充実の一冊になると思います。

  

2016年11月20日日曜日

【漫画推薦:洋画気分なニューヨーク・ブロンクスの警官物語】 オノ・ナツメ 『COPPERS』




この漫画の舞台はニューヨークのブロンクス区にあるニューヨーク市警

の51分署の警官たちの人間模様です。作品名のCOPPERSとは、警察

官を意味するスラングCOPPER(カッパー)の複数形で、由来は昔の警

察官の制服は銅(COPPER)のボタンであったためとされる。

作品は全2巻です。


尚、余談ですが、現代になって、この単語は短くなりCOP(コップ)になる。


http://honto.jp/netstore/pd-book_03056736.html

http://honto.jp/netstore/pd-book_03124403.html



作風はまるで洋画を見ているようなタッチの人間描写に、日本風の

刑事モノの文法を組み合わせた作品です。物語の始まりは51分署

長が入院し、警部補カッツェルが署長代理に就任した早々、篭城事

件の発生により主要登場人物の人間模様が動きだし、誰が誰でなく

あることを話し始める。


署長代理のカッツェルには新しい職務や任地に赴いた初日及び最終

日には何か騒ぎが起こる、というジンクスがあるらしい……。果たして

最終日にジンクスは起きるのか? また彼のジンクスの影には何が?


曇り時々晴れ、冬の寒さと雪、デリに集まる警察官たちの息遣いなど、

この作品は事件の扱いそのものよりも人間描写や独特の「間使い」に

あります。さながら、手触り感のあるようなアメリカントラディショナルな

雰囲気のタッチになっています。


デリのサンドイッチやドーナツも匂いが漂いそうな感じです。


万年ヒラの巡査だが街の皆から好かれているタイラーや独特のこだ

わりを持つ若手刑事のヴァル、仕事力はあるが悩める「乙女」である

女性巡査のモーリーン、エリートコースでありながら警部昇進試験に

一度落ちてから次を受けようとしないヴォス警部補など、個性豊かな

警官達がブロンクスの街角で物語を進めます。


覚悟は手に提げるもんじゃない 持ってたって見えない
ジンクスは周りが決めることじゃないわ。本人が決めることなの


秋の夜長、お茶をしながら洋画気分に浸れる一冊です。


2016年11月19日土曜日

【ライフエッセイ】 英国風散歩で見た東洋のブルックリンと食欲の秋

英国人は散歩好きとされるし、アリストテレスは弟子たちと散歩

しつつ、語らうことを好んだと言う。東洋医学では五感は五臓と

繋がっているとされる。天気の様子などを伺いながらゆっくりと

散歩すると心地良い疲れをもたらすことで心身が心地よく発達

し、機能するとのこと。


ともあれ、季節は散歩に相応しい秋です。


百年前に英国作家のE・M・フォスターが英国中産階級の願望は

「散文を詩」にと述べたそうですが、残念ながら僕にはポエムの才

能は無いので散文でお許し願いたい。

 
三井住友銀行のレトロ建築を望む
肥後橋の紅葉




このあたりの吹きぬける秋の風はモダン大阪らしくて好きです。

生きる芸術と言える、三井住友銀行のレトロな眺めのある土佐堀川

の界隈の息吹が「東洋のブルックリン」と想起させたくなるんですね。

フェスティバルビルの第二期工事が完成すると、更に歴史と現代が

交差する街になります。


靭公園の紅葉

靭公園の光の道



靭公園の静寂と紅葉も、また、良し。

木漏れ日のトンネルを見つける。心が和んできます。

散歩は五感の安らぎですね。






余談ながら、食欲の秋は百十デラックス。

なんばこめじるし、にて。

あれこれしゃべりながら、空腹を満たす。



2016年11月9日水曜日

【ライフエッセイ】丸福珈琲とかの名店コーヒーの薫りを倍にして楽しむための本『コーヒーが廻り世界史が廻る』

本棚の隙間で、これ、を、見つける。


臼井隆一郎『コーヒーが廻り世界史が廻る』(中公新書)


9世紀頃にイスラム神秘主義(スーフィズム)の秘薬として飲まれたと

される、コーヒーが時代を経て1652年・ロンドンに一軒の粗末な空間

として生まれたコーヒーハウスが次第に金融や言論と文化のセンター

となって世界史を廻しはじめた黄金期の華やかで青臭い前半部分。


第一次世界大戦にて敗色濃厚のドイツのコーヒーの背後にあった暗い

歴史(戦後は戦勝で潤沢にコーヒーハウスを味わえるはずが、戦後の

ドイツの現実は天文学的インフレと大衆文化主軸はビア・ホールであ

ったことと、若き日のあの独裁者は神経性の失明から奇跡的に回復

したことが記される後半部。


著者をして、かくしてコーヒーとは「近代市民社会の黒い血液」


ところで、この写真はどこの大阪のコーヒー屋さんでしょう?








正解は、丸福珈琲本店(写真上)、ALL DAY COFFEE (写真下)です。



お察しのとおり、近代市民社会の血液は、有名老舗である丸福珈琲と、伝

統的ドリップの末裔であるサードウェイブのコーヒースタンドになって生きて

おります。そんなことを、思いながら、熱い珈琲をすすってみるのも、また、

良しなのではないか、と僕は思いますよ。


鼻腔に入る薫りもまた、違った奥深いものになるかもしれない。
 
なぜなら、コーヒーを飲むことは「近代社会の黒い血液」を飲むことだから。



2016年11月6日日曜日

【洋楽雑感:洗練されたサザン・ロックアルバム】キングス・オブ・レオン最新アルバム『ウォールス』 

皆さんは、サザン・ロックという音楽ジャンルをご存知だろうか?


アメリカ南部のカントリーや、ブルース、ハードロックなどを土台に

した、いぶし銀の泥臭くパワフルなロックンロールのことで、洒落

っ気という意味においては、邦楽中心のリスナーさんには馴染み

薄いかもしれない。ただし、米南部の泥臭さや武骨さを知ることは

洋楽を聴くうえでの、ちょっとした「教養」になると思うのだが。



何故なら、ブルーズやカントリーは現代ポップ音楽の源流だから。



なお、ローリング・ストーンズや、レッド・ツェッペリンに似た音楽性

なのかという質問もあると思います。類似ないし影響を受けてはい

ますが、微妙な違いがあります。


サザン・ロック、特に今回紹介するキングス・オブ・レオンは、カレブ

の歌い方がシャウトではなくアメリカ南部の野太い男臭ささや、男の

哀愁を漂わせることと、演奏もギターサウンドの壁を作るより、単純

にドラムもベースもふくめ楽器一つ一つの音をラフに太く、少し重さ

を引きずったようなグルーブが彼らの特徴で、これが先のストーンズ

の南部感や、レッド・ツェッペリンの攻撃性との違いになります。






キングス・オブ・レオンは、アメリカ合衆国テネシー州ナッシュビル

出身の、カレブ・フォロウィル率いる3人兄弟と従兄で構成される

バンドで、第52回グラミー賞受賞に輝いているのだが日本での

知名度は「通好み」止まりのようなのが個人的には悔しいところで

あります(笑)



彼らはペンテコステ派の伝道者の息子で、幼少期からルーツ音楽

を初め、色々な音楽に接してきた背景を持つキングス・オブ・レオン

は、派手さはないが、本アルバムでは泥臭さ、キャッチーさ、ポップ

さを上手く混ぜているのが特徴です。


あのボブ・ディランも高く評価している、とされています。






最新作『ウォールス』の1stシングル『ウェスト・ア・モーメント』

青春っぽさ満載の歌詞に、ドライブ感満載のビート!

芯にある男臭さのある枯れた歌声!





「闘わないなんて男じゃない」、「欲望がなければ男じゃない」と

真っ直ぐな男気ある歌詞と、西海岸ロックの哀愁漂うバラードの

『WALLS』は叫び上げるだけがロックじゃないことを見事に証明

している。


CDジャケットのデザインはメンバーの顔を現代アート風にデザイン

したもので(悪趣味っぽさと言うのか)王道で古風なロックンロール

とは相当掛け離れていることだ。しかし、逆にこうであると決めるこ

と自体がロックじゃないし、過去作品という壁(ウォールス)を超えて

洗練されたポップさが調和したサザン・ロック・ナンバーを完成した

彼らの吹っ切れた心境が表れている気がする



幾多のピンチを乗り越えて、彼らは大した奴らだと思う。

2016年11月5日土曜日

【読書雑感:革命家と食欲のルーツを追い求めて】『辣の道 トウガラシ2500キロの道』




著者の加藤千洋氏は、朝日新聞編集委員、同志社大学大学院教授のほか

に、『報道ステーション』のコメンテーターなどを務めてきた経歴をもつ。

 
400年前、南米から中国に渡来して各地に伝わったトウガラシは地域にいか

に定着し、暮らしをどう変えたのか?四川省からのルートを追って大陸2500

キロ、さらに京都へ、東京へ脚を運ぶノンフィクションで、読むだけで額に汗が

流れそうになる一冊が、『辣の道 トウガラシ2500キロの道』です。


さて、問題です。この料理は何でしょうか?




紅白火鍋ですね


僕は神戸のある店で、初めて食べたたとき、思わぬデトックス効果に襲撃

されて、トイレを目指して悶えすぎた経験があります。この料理の真髄はこ

んなほどの「刺激と旨い辛いのエッセンス」であることを思い知らされました。


余談さておき著書の取材によりますと、1983年の秋のこと、重慶料理界の

長老である呉萬里さんは新しい火鍋を全国料理技術大会の出品前に、だ

れかに試食をしてもらおうと、北京在住の老幹部たちを呼ぶことを決める。

なんと、自ら現れたのは鄧小平だった!


ところかわって、日本。京都の先斗町にある戦後間もない開業の「おばん

ざい(お惣菜)」の店にて(文化人御用達のサロンでもあった)。ここのお品

書きのひとつに、万願寺甘とうの甘辛い炊きものがある。そしてこの店の

屏風にある即行の詩の筆をとったのは、司馬遼太郎さんとのこと!


「辣の道」(スパイス)を旅した気分になる一冊です。

2016年10月29日土曜日

【美術展雑感:アドリア海の女王の輝き】 国立国際美術館『ヴェネチア・ルネッサンスの巨匠たち』



国際国立美術館は、美術館の主要部分が地下3階構造になって

いる、世界的に見ても珍しいスタイルになっている。そして地上部

の格子風のモニュメントは、ルーブル美術へのリスペクトとされて

ます。

大阪水都/中之島ライフを素敵に過ごす上で、この川沿いの美

術館は、「東洋のブルックリンとしてのミュージアム」と思ってます。

初期昭和レトロな建物が現代性と混在するこの街だからこそ。




                   ジョヴァンニ・ベッリーニ
                 《聖母子(赤い智天使の聖母)》
                        油彩/板 77 × 60 cm



日伊国交樹立150周年特別展となる、『ヴェネチア・ルネッサンスの巨

匠たち』は、本当に素晴らしかったです。「自由奔放な筆致による豊か

な色彩表現、大胆かつ劇的な構図を持ち味とし、感情や感覚に直接訴

えかける絵画表現の可能性を切り開いていきました」との説明に、さも

ありなんと感じた。フィレンツェの緻密な作風と違って、どの作品の画風

も「カジュアルさ」が溢れていました。


群雄割拠、他国の侵略も絶えないイタリアにあって、一先年もの
長きにわたり交易で欧州を席巻、自由と独立を守りつづけた海
洋国家ヴェネチア。異教徒との取引に積極的であった一方、聖
地奪還を旗印にする十字軍に加担しつつ、これを巧みに利用して
勢力範囲を着々と拡大する--- 【略】 
(塩生七生『海の都の物語』の解説より)


異端審判、魔女狩りや、宗教抗争とも無縁だった、ヴェネチア共和国の

自由さと繁栄を感じさせる作品たち。「肉体の眼で見るのではなく、知性

の眼で見るべきだ」、とゲーテが彼の共和国を評した意味を感じさせられ

ました。塩野さんの言葉を借りれば、有利と判断した場合意外は、一度も

モラリストであろうとしなかった民族であった、という。




なので、聖母子画のように「古典的で行儀良い」作品が見受けられない

わけが、何となくわかった気がしました。事実、ヴェネチアはナポレオン

の侵攻まで1千年継続した「政治の技術力」の国家であったのだから。





2016年10月28日金曜日

【書籍雑感:自分に必要なミニマムさに気付く充実生活エッセイ漫画】 『やめてみた』



著者の、わたなべぽん氏は時々漫画家で、ほとんど主婦の人。

この作品は生活の中の「なんとなく使ってきたけど本当に必要か

どうかわからないもの」や「なんとなくモヤモヤする考えグセ」など

を思い切ってやめていく話です。


最近は、断捨離やミニマリストなる言葉がありますね。


東洋経済ONLINEの「95%を手放す!あるミニマリストの生活」

記事なんかは、お手本で爽やかなである種のストイックさを感じ
させてくれます。非の打ち所がない、隙がないですね。真似する

のは厳しいかも、と思う人もいるでしょう。


しかし、この作品は、漫画家を夢見みていた古本屋のヘビースモー

カー店長の経歴もある著者が、主婦として家庭生活などを過ごす日

々のなかで気付いて、「やめたら本当に必要なものが見えてくる」エ

ピソードで、ほのぼのさのある画調でゆるり~とした空気を楽しめる

のが特徴です。


炊飯器の故障をきっかけに、お米の土鍋炊きをしてみたら、こりゃ

素晴らしいと定着した話や、思い切ってゴミ箱の数を減らしてしまう

ほか、ダンナさんの助言から、インターネットへの執着防止ルール

を決めたり、親切やサービスには「過剰なスミマセンを言うより、あ

りがとうだね」に気付く話など、技術論臭ささがなく、その凡庸さゆえ

に、等身大で人生の充実感って何かなぁを逆に考えさせられます。



2016年10月26日水曜日

【シネマ鑑賞雑感:英国の気品と信義のスパイサスペンス】 『われらが背きし者』



「何故、僕を選んだ---」


インテリジェンス関連の書籍を開くと、人がスパイになる理由

は、次のように言われる。

第一にお金(金銭的困窮)、第二にはイデオロギー(特定の思想に

強く共鳴しており、その思想が掲げる理想を社会で実現するため

にスパイになる)第三に自分の名誉や立場を守るため、最後の第

四はエゴイズム(所属している組織や周囲からの評価に強い不満

を持っているため)がスパイになる/されてしまう動機となる


今回紹介する作品はクラシックスパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレ

の小説を映画化した、「われらが背きし者」です。


イギリス人大学教授ペリーと妻のゲイルは、モロッコで休暇中に
ロシアンマフィアのディマと偶然知り合う。ディマから組織のマネー
ロンダリングの情報を聞いたペリー夫妻は、1つのUSBメモリを
MI6に渡してほしいとディマに懇願され、突然の依頼に困惑しつ
つもディマと彼の家族の命が狙われていると知り、その依頼を
仕方なく引き受けてしまう。それをきっかけに、ペリー夫妻は世
界を股にかけた危険な亡命劇に巻き込まれていく.....



余談ながら主演のユアン・マクレガーが、映画『ムーランルージュ』で

達者な歌声を披露したとき、彼の歌声がカワイイなぁと評した女性客

の会話があったことを妙に覚えています(笑)


ともあれ、全体として気品のある秀逸で古典的な英国スパイ/サスペ

ンス作品となっていることと、詩分析の凡庸な大学教授ユアン・マクレ

ガーとロシアマフィアの資金洗浄役の親分を演じる、ステラン・ステル

スガルドの渋い演技が「決して遠い世界の出来事でないスパイサスペ

ンスの恐怖と緊迫感に巻き込まれるかもしれない現実」に観客を巻き

込んでくれる。


果たして亡命作戦の結末は?


僕が考えるこの作品のキーポイントは次の二つあると思う。

何故、ステランがユアンを協力者(スパイ役)に選んだ本当の理由は?

作品名にある、主人公たちが背いた者とは?


「信義を重んじる」


冷酷さと裏切りだらけの国際金融資本主義の世界にあって、何とか

あらんとしようと駆け回り続ける、主人公たちと共にこの答えを是非

探してください。銃撃戦だけがスパイサスペンスの答えではないので

すので。


2016年10月25日火曜日

【書籍雑感:ある男の見た欧州の等身大の気質】 関口知宏のヨーロッパ鉄道大紀行



僕の中では関口知宏さん、といえば司会者・タレントの関口宏の放蕩息子

のイメージがあったが、実は彼は旅が苦手とのこと。飛行機が嫌い、外国

の食べ物が日本と違って選択肢が極端に少ない、時差と機構の差で毎回

体を壊す、と苦痛と嫌いなものの塊と述べていて、意表を突かれました。


本書は知宏さんの、8年ぶりの鉄道紀行の記録と絵日記エッセイです。


単にヨーロッパ旅行に行こうと思っても出来ないから、彼のひょうひょうと

した(?)雰囲気をガイドにしてオランダ、ベルギー、オーストリア、チェコ

の旅情を紙面で楽しむのも十分ありですが、その繊細さと聡明な眼差し

にて捉えた、 各国の国民性や気質や、逆に欧州の側から見えてくる日

本というものを感覚で味わって欲しいなぁ、と思います。


誰も自分の両親の子供時代の記憶が無いように、日本も明治維新以前

の欧州の記憶はありません。なので、欧州の近代史を読んで理解しよう

としても頭痛の連続になりそうなところなのですが、 知宏さんのスタンス

は、なんとまぁお見事です。


僕は他国の国民性を発見「する」ためにこの旅をしてきた
のではなく、自然にそう「なった」のです。旅を通して気質や
国民性を見ようとしなくても見え、聞こうとしなくても、聞こえる
ように「なった」のです。つまり、この旅の目的に自然に「なった」
のです。  (p.157)