2017年11月12日日曜日

【書籍推薦】辺境の未承認国家ソマリランドで世界に挑むエリートを育てる驚異の実話 『ソマリランドからアメリカを超える』

元ファンドマネージャーの男が私財を投げ打って

挑んだのは、辺境の「未承認国家」ソマリランド

の学校創り。様々な顔ぶれのソマリ人生徒が集

まったこの学校は単なる初等教育ではなく、なん

んとハーバードやMIT(マサチューセッツ工科大

学)に進学しうる国際エリートを育成するための

進学校だった!

本書は、著者がソマリランドで経験した八年間の

教育投資への情熱と、その奇跡の記録です。







-------------------------------------------------------------------------
■教育・読書関係の関連記事
 ●受刑者が夢中になるはクスリではなく読書会 『プリズン・ブック・クラブ』
 ●英国チャンネル諸島の人間賛歌 『ガーンジー島の読書会』
 ●人間の尊厳と生命の礎となった図書係り少女の物語『アウシュヴィッツの図書係り』
-------------------------------------------------------------------------



想像してほしい。中近東のイスラム圏で、ましてイスラム教徒でも

ないアメリカ人がソマリランドの荒地に学校を作ろうとすると、一体

どうなるか。 地元の原理主義者の突き上げは無論のこと、学校の

乗っ取りを企む地元有力者や、営業妨害の風評を流す地元の私立

学校まで登場したり、著者が生徒募集のための調査で見たものは

受験生のカンニングの横行と学校行政側の黙認や、イスラム圏で

のジェンダー配慮など数知れず。



しかし、著者は七転八倒の学校運営のすえ、不可能とされた夢を生

徒たちとわずか数年で実現していく。



近現代アジア史で、「辺境」からこのように教育がもたらす「階段」を

登った人物としては朴正煕(パク・チョンヒ)元韓国大統領の、師範

学校卒業、旧・満州国陸軍軍官学校首席卒業、旧・日本陸軍士官

留学、同卒業、という(当時の植民地統治の是非は別として)偉業

の経歴が思い起こされるが、同書に登場する若きソマリ人生徒たち

は、その歴史を髣髴とさせるかのごとく、勉学、スポーツ、地域奉仕

活動に取り組んで、ソマリ氏族の誇らしげな代表へと育っていく。



同書は、「知識がないのは光がないのと同じである」というソマリ族

のことわざ、を引用しているが、翻って日本を見るに、教育があるこ

とが「当たり前」で、教育が人間の尊厳や成長にとってどれほど重要

なのか逆に改めて痛感させられる一冊にもなっている。教育需要の

根底にあるのは「外の世界へ出るための飢え」に他ならないからだ。



もちろん、著者のジョナサン・スター氏の行動力、胆力も非常に素晴

しい。彼はヘッジ・ファンドの世界では輝ける功績を残すことはなかっ

たが、学部生のころから構想していた開発途上国における質の高い

教育サービスの提供を、「未承認国家」であるソマリランドで達成した

ことは、彼の教育への情熱もさることながら、未知なるフロンティアに

挑む投資家精神(リスクテイク)の賜物だろう。また、貧困の解消を目

指す国際NGO(非政府組織)が挑戦しつつも、思うように成果を出せ

ない現状も痛々しい。



世界中にはあらゆるイデオロギーで「反米」が存在するのが事実だが

本書を読むと、教育というフィルターを通してソマリランドといういまだ

知られざる国の内幕と、「反米」の一方で「憧れの国、米国」が今なお

あることを感じるだろう。人間や教育、若者たちの夢を考えてみるのに

お薦めの一冊です。

0 件のコメント:

コメントを投稿