2017年12月17日日曜日

【書籍推薦】美味しい昼食と酒と見守り仕事を通してバツイチの女性が日々を生きる 『ランチ酒』


https://honto.jp/netstore/pd-book_28747838.html
東京の中野坂上に暮らす、バツイチでアラサー

の犬森祥子は、同級生が経営する「中野お助け

本舗」で「見守り屋」として様々なワケを抱えた人

を見守る仕事をしている。彼女の楽しみは、夜勤

明け後に美味しいランチと至福の一杯を飲むこ

と。

 
自分の愛する娘は今、元夫のところ。泣きたいと

きもあるけれど、おいしい料理と酒で心を癒して

彼女はこの街で生きていくため進んでいく……。




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 【料理・食材関係の推薦過去記事】
 ● 小説 天見ひつじ 『深煎りの魔女とカフェ・アルトの客人たち』
 ● 漫画 里見U 『八雲さんは餌付けがしたい』
 ● 小説 辻仁成 『エッグマン』
 ● ノンフィクション G.ブルースネクト 『銀むつクライシス』
 ● 【グルメ散策】梅田の地下で楽しめる北欧カフェの味と遊び心 nord kaffe
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吉田類の酒場放浪記のヒットを機として、おひとりさまを

題材にした作品が出回るようになった感があるが、本作

は、胃を刺激される食事と酒の描写もさることながら、主

人公の仕事のお世話になる、お客さんたちの姿を絡ませ

ながら、土地の香りと人情味ある連作小説になっている。



出張で、飼い犬の面倒を見て欲しい女性デイトレーダー や

アルツハイマーを発症し始めたシニア女性、有能な外資系

証券会社の副社長だが、中身はファナティックなまでに地下

アイドルに恋をする男、身内に相談できない悩みで眠れない

女性漫画家など、 主人公・祥子のお客さんは一癖も二癖も

ある事情を抱えた人ばかり。



仕事明けのおいしい料理と酒を飲みながら、クロスオーバー

するのは、 世間を映すようなお客さんの事情、何よりそして

元・夫と、愛しい娘・明里と家族であったころの時間……。



女ひとり酒場と仕事という、いかにもやさぐれ感が出そうな

ところですが、何よりも娘思いな優しさと、楽しく飲み食いを

して、「私は生きているし、健康だ。元気出そう。へこたれて

なんかいられない」(p.173)とポジティブに自分のスタイルで

生きていて、どことなく背徳感のある昼飲みランチのイメー

ジではなく、読者にめげずに生きていく力を与えてくれるヒ

ロインなのが良いところです。



出てくる料理も和洋中と多彩で、主人公が大阪の阿部野橋に

実在する日本で唯一(おそらく)の太刀魚料理専門店を探しに

行ったり、お客さんの漫画家が「イケメン男子が眠れない女性

の為に添い寝をするビジネスを描いた漫画」(「シマシマ」のこ

とと思います)を推薦したり、各話の題名が各地名だったり、と

微細なディティールが仕込まれており、作品に庶民っぽさと日

常感を与えてます。


悲しくとも辛くても、今日を頑張る貴方にお薦めしたいランチ

と酒と人情の小説です。

2017年12月16日土曜日

【書籍推薦】ナチス政権下で敵勢音楽のジャズに熱狂する不良少年たちの群像 『スウイングしなけりゃ意味がない』

https://honto.jp/netstore/pd-book_28274600.html
1939年ナチス政権下のドイツ。軍需会社の経

営者を父親にもつ15歳の御曹司エディと、友人

たちが熱狂しているのは頽廃音楽と呼ばれるス

ウィングだ。だが音楽と恋に彩られた彼らの青

春にも、徐々に戦争が影を落としはじめる…。


この作品で特徴的なのは、「悪者」としてより「ダ

サい」存在としての反ナチス行動と、国際資本

主義の消費文化を享受する「申し子」として、反

戦とジャズに酔狂し、必死に生き残ろうとする主

人公の反骨ぶりとユーモアの精神だろう。



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■ジャズと戦史関連の推薦過去記事
 ● 映画 『永遠のジャンゴ』
 ● ノンフィクション 『レッド・プラトーン 14時間の死闘』
 ● ノンフィクション 『ヒトラーの原爆開発を阻止せよ』
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歳をごまかすお洒落をしてクラブで踊り、ジャズを聞き、奏でては

パーティーをしたり、秘密警察(ゲシュタポ)に追われたり、捕ま

ったり、強制労働させられたりしても、主人公は「ホット」な音楽を

求めてBBC放送を録音し、海賊版レコードを製造販売し続ける

など、 不合理で暴力的な政治がまかり通る時代にあって、心を

揺さぶられる(破天荒で享楽的だが)青春を過ごしていく。



著者の巻末解説によると、大都市の中産階級以上(今日でなら

富裕層だろう)の若者がスイング・ボーイズと言われ、ゲシュタポ

の調書に忌々しく書かれてあるとの一方、ジャズは戦線慰問で

は解禁だったなど、市民活動に根を張ってどうにもできないのが

実態だったとされている。



60年代のパンク・ロック・ムーブメントのように、生意気盛りの青年

にとって音楽は自己主張の手段だ。 海賊版レコードを密造する主

人公達の姿はまさにパンクのDIY精神(自分たちでやる。何だって

出来る)を彷彿とさせるし、強制労働させられるポーランド人などを

見ては、食事をきちんと与え、働かせて税金を納めてもらえるほうが

よほど国のためになるじゃないかと、主人公が考えるあたりも、同じ

く、パンク精神(反ファシズム政治)に通じるものを感じさせる。



各章の題名をジャズのタイトルにしているところも良い。特に主人公

の友人の祖母が半分ユダヤ人であることから始まる悲話を、「奇妙

な果実(Strange Fruit)」と題したところに著者の意気込みを感じる。

ビリー・ホリデイが歌ったアメリカ南部の黒人人種差別の叫びは国

境と時代を超え、作中で民族浄化への痛烈な批判となっている。
 


同曲の歌詞の一節を未聴の人のために引用しよう。

実に鮮烈な暗喩である。


カラスに啄ばまれる果実がここにある
雨に曝され、風に煽られ
日差しに腐り、木々に落ちる
奇妙で惨めな作物がここにある


ジャズを未だ聴いたことのないかたも、各題を検索して聴きつつ

本書を読んでみてはいかがだろうか。もちろん、今となっては国

家社会主義労働党(ナチス)が、どんな未来を目指していたのか

想像するしかないが、スウイングというブルーノートコードが持つ

米国発の反骨精神が、ハンブルクに住むドイツ人青年たちの心

を揺らし、自由と享楽を渇望する姿に繋がっていく本作品は、戦

争青春小説の新しい幕開けの一つになるだろう。

2017年12月10日日曜日

【書籍推薦】世界5都市のリアルと人間の業と本質に迫る近未来SF 直木賞候補作 『ヨハネスブルグの天使たち』

https://honto.jp/netstore/pd-book_25601090.html
舞台は近未来で、世界的恐慌と民族紛争の厭世

観が続く、世界の5都市。ヨハネスブルグ、ニュー

ヨーク、アフガニスタン、イエメン、北東京。この世界

は日本製の音楽玩具人形DX-9が国境を越えて普

及し、あるところでは兵器として、あるところでは人

種絶滅政策からマイノリティが生き残るための最後

の拠り所として、またあるところでは衰退した町の

片隅で静かに活動している。(この玩具音楽人形は

ボーカロイドの初音ミクがモデルと思われます)。








著者は幼少期より92年までニューヨーク在住とのことで、本作

は鋭い国際的視点とハードボイルド風の簡素な文体で、人間

の業と本質に迫りつつ、国家・民族・宗教・言語の意味を先に

述べた日本製ホビーロボットを媒介にして、リアルに問い直す

才気ある骨太の作品に仕上げてあり、さながら国際報道ルポ

の最前線を見ているような気分になります。

直木賞候補作になっただけの見事な手腕と思います。



紛争地域における戦闘の描写もマイケル・マン監督の作品の

ように、乾燥したタッチで描写されているところが、リアル感を

醸し出しており、 特に中近東の埃臭さが漂ってくるようです。



連作の短編集ながら、各話の結びに様々な参考文献(国内外

の学術書など)が出ており、作品の硬質さと、難民問題、中近

東の紛争などが蠢く現実世界と、作中で描かれるドン底まで

疲弊しても紛争を止めない人類の虚無感をリンクするための

裏打ちになっていて、読者を悪夢と希望が交差する世界へと

連れて行きます。



9.11の悪夢を再表現する『ロワーサイドの幽霊』は他の収録作

品とは違う、建築学的、幻想的、哲学的な要素が強い作品です

けども、対テロリズム戦争の始まりを見つめ直す意味で、辛くも

読み応えがあり、ここから話は加速度的に進展していきます。



話し全体を通して、先のハードボイルドフィーリングも相まって

哀しさや虚無感(特に民族や精神性に対する虚無感)が充満

しているのですが、一方で希望を捨てきれない人間の優しい

眼差しがあるのも特徴です。残虐性と寛容さは相反するもの

じゃなくて、表裏一体の性であることや、自由至上主義(リバ

タリアニズム)という名の全体主義への懐疑などが本作では

提示されています。



本作の結末作品となる『北東京の子供たち』はSFとしては異色

な「団地小説」の形式で描かれており、登場人物の少年少女の

切なる願いや、ヴァーチャルの世界へ引きこもることを楽しみに

する大人たち、衰退商店街で音楽玩具人形DX-9が「看板娘」と

して歌う姿は哀しくも、荒廃した未来を望まない著者の優しさが

添えられているかのようです。



すこし難解なところもありますが、混迷を増してきた国際情勢の

なか、現代社会を問い直す意味でもお薦めしたいSF小説です。

2017年12月9日土曜日

【書籍推薦】探検作家が北極圏でフランクリン隊の軌跡を追う 『アグルーカの行方』

https://honto.jp/netstore/pd-book_25302090.html
16世紀以降、英国は北極や南極の探検でライ

バル国を常にリードする存在だった。北極点に

到達すること、アジア(中国圏)へと続く北西航

路を発見することは、当時の極地探検の世界

において最大の冒険的目標だった。


1845年、北西航路の探検隊の隊長に選ばれた

ジョン・フランクリン率いる部隊は、国威と共に

未だ見ぬ欧州とアジアを繋ぐ北西航路の探す

も、カナダ北極圏で消息を絶ち、129名全員死

亡となった。




史上初めて北西航路の発見に成功したのはノルウェーの

ロアール・アムンセン率いる探検隊だった(1903~06年)。


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【極限状況ノンフィクションの推薦過去記事】
 ● ルポ 『レッド・プラトーン 14時間の死闘』
 ● ルポ 『ヒトラーの原爆開発を阻止せよ』
 ● ルポ 『愛は戦禍を駆け抜けて』 
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冒険作家である、角幡唯介氏はフランクリン隊が見た風景

を自分でも見たくなり、北極探検家の荻田泰永氏と2011年

2月22日、日本を出発する。二人の旅の工程は、北極圏の

レゾリュート湾を出発し、フランクリン隊で最後に生き残った

とされる何名かが目指したとされる北米大陸の不毛地帯の

先にあるベイカー湖へ……。



本当にフランクリン隊は全滅したのか?

著者は本書の題名であるアグルーカ(イヌ

イット語で「大股で歩く男」の意味)の存在

を求めて、極寒の地を荷物を満載したソリ

を自力で引きながら歩く。


寝息でテントに霜が張り、唇の血も凍るほ

どの体力を容赦なく蝕む自然環境下を行

く著者の精神力もすごいが、冒険と文献を

相互に展開させる筆力と展開力の巧みさ

も素晴らしい。さながら、ミステリーのトリッ

ク解きで、読者を極地探検の世界に誘う。









本書を読んで痛切に感じるのは、命の危険を犯してまで

も、極寒の極地に身を置き、「飢餓感」に晒されながらも

地図なき世界で何かを探さんとする、冒険家精神の迫力

と、生は死を内包することでしかあり得ない、哀しさだ。



探検の途中、著者は「飢餓感」から麝香牛を撃ち殺し、その

肉を食べるのだが、そこにあるのは人間の生と死の根底に

ある、「食べる」ことの究極的な姿に他ならない。もちろん、こ

のことはフランクリン隊のカニバリズムの悲劇に比べれば生

易しい話だろうと思うが、我が国が戦時中に米国潜水艦によ

って行われた「飢餓作戦」で物資欠乏のどん底に落ちた歴史

は決して遠い昔の話ではない。



腹を下してでも、自分で仕留めた肉を貪る姿は人間の生と死

を巡る物語は絶えることなく続いていることを思い起こさせる。



探検の後半、著者は中継地点の村に、衛星携帯電話を置いて

ゆく決断をするシーンが印象的だ。連絡をして助けてもらえる道

具を持つことは冒険の要素を薄めるからだ。次の一説は実にスト

イックで、納得させられる。


冒険をすることの目的とは自然という何が起きるか分からない
世界に深く入り込むことにある。奥に入れば入るほど、自然は
自分が生きて存在しているという厳然たる事実を身体に突きつ
けてくる。(p.297)

 
この厳然たる事実の先に、著者が見たものは何か?

詳しくは本を手にして見て欲しい。

本を通して、あなたも北極圏を冒険したような感状が湧くと思う。





2017年12月3日日曜日

【洋画推薦】奔放なジプシー・ジャズ演奏家がナチスと闘う 『永遠のジャンゴ』

http://www.eien-django.com/
この映画は少年期に火傷で損傷した左手を逆

に活かして、神がかり的な速弾き演奏で人気を

博したベルギー生まれのロマ、ジャンゴ・ライン

ハルト(1910年~53年)という、天才的なジャズ

ギタリストの知られざる姿を、第2次世界大戦

中のナチス・ドイツによるロマ民族への迫害を

絡めて描き上げた作品だ。米国のスイングとジ

プシー音楽を融合させた独特なジャズは、後の

様々なミュージシャン(B.Bキングなど)に影響を

与えている。




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■映画と音楽の過去推薦記事
 ● 若返ったリアムの現代版クラシック・ロック・ソロアルバム 『AS YOU WERE』
 ● 英国の国民的ロックバンド、ステレオフォニックスが奏でる米国南部の薫り
 ● 洗練されたサザン・ロックアルバム 『ウォールス』
 ● 映画 冷徹な女性ロビイストの闘い 『女神の見えざる手』
 ● 映画 公営団地から生まれたロックスターの軌跡 『オアシス:スーパーソニック
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舞台は、ドイツの占領下にあった1943年のフランスが舞台。

パリの劇場で超満員の観客を熱狂させるシーンから始まる。

しかし、戦時下の欧州にあって、ナチスはプロパガンダでジ

ャンゴのベルリン公演を立案する一方で、優等人種政策に

基づく民族浄化の矛先を、ユダヤ人だけでなくロマへも向け

始めていき、当初は戦争に無頓着であったジャンゴの意識

は変わっていく……。



生き延びるためにナチス・ドイツのお抱えミュージシャンとして

自我を殺すこともできるが、民族の仲間を迫害しているドイツ

兵の前で演奏などしたくない、という二律背反の苦しみのなか

彼はスイスへの脱出を決意する。



演奏シーンを鑑賞して感じたことは、ジャ

ズの源流たる黒人音楽のブルース(ブ

ルー・ノート・スケール)が持つ反骨精神の

すざましい力だ。この憂いを帯びた感情を

明るく表現する音色は70年代のロックで、

レッド・ツェッペリンがブルースのパワーの

究極的表現として成功したことが有名で

すが、この作品にはナチス高官の前で演

奏するジャンゴの反骨心と観客も踊り始

める演出があり、音楽に国境なしと思わ

ず、ニヤリとさせられ、愉快で見ものです。








ジャンゴを演じている、アルジェリア系フランス人の俳優

レダ・カティブが本人になり切ったかのような奔放なまで

の熱演、お見事です。 面長で口髭が似合っており、今後

も、歴史系のクラシック作品などで才能を発揮して欲しい

と思います。口髭の演技が似合っている俳優は、名探偵

ポアロを演じたデビット・スーシェ、『ダラス・バイヤーズ・ク

ラブ』のアカデミー賞男優マシュー・マコノヘイ以来、久しい

気がします。



余談ながら、彼はあの「ゼロ・ダーク・サーティー」に脇役

出演していたとのこと。長い下積みが実を結びましたね。



不世出のジャズギタリストの生き方と、ナチスの民族浄化

の残忍さ、ジャンゴを取り巻く女性(芯の強い彼の母親と

一所懸命で従順な妻と、 ミステリアスで我の強い愛人)の

何とまぁ、と思わせるたくましさが織り成され、最後に迫害

されたロマ民族への鎮魂歌へと昇華していく、見事な音楽

史映画の誕生ではないでしょうか。

2017年12月2日土曜日

【洋楽推薦】21周年記念作品ではなく、挑戦を続けるステレオフォニックスのロック精神 最新アルバム『スクリーム・アバヴ・ザ・サウンズ』

http://tower.jp/item/4595036/%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%90%E3%83%B4%E3%83%BB%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%82%BA
英国・南ウェールズのロンザ谷近くにある

村、カマーマン出身のバンドであるステレ

オフォニックスは21周年を迎えたが、○周

年記念的な新曲入りベスト・アルバムでは

なく、最新アルバムを発売したことに、ファ

ンとして個人的にそのミュージシャン魂を

嬉しく思っている(なお、ベスト盤商法を必

ずしも悪いと思っているわけではない)。






彼らはデビューアルバム『ワード・ゲッツ・アラウンド』(97年)で

故郷カマーマンの日常を、ストレートに力強く歌い一定の評価

を得てから、王道のロック、米国の南部サウンドやオルタナテ

ィブ・ロックなどを吸収しながらUKの豊潤なポップを同居させた

音楽性で成長してきたが、今回の最新作も「前進あるのみ」の

精神で満ちている。



王道バンドは通常、作曲の面で壁にぶつかりやすいものだが

彼らは今回、ダンス・ミュージック、80年代調のシンセ・サウンド

の他、ポップなR&B、ホーンなどを取り入れながら、かつ、普遍

性のある曲に仕上げており、聴き応えのある一枚になっている。






まぶしく煌くギターのリフレインが特徴的なOP曲、『コート・バイ・ザ・ウ

インドウ』は、「森に潜む狼たちはルールなんておかまいなし 願いごと

はなんでもかなう 何でもありなんだ」と歌い、バンド自身と観客に勇気

を出してくれ、と真っ直ぐに鼓舞するかのようです。






映画のストーリーテリングを想起させる歌詞に、80年代調のシンセ

サウンド、ケリー・ジョーンズのメランコリックな歌声が織り成すこの

『オール・イン・ワン・ナイト』は、架空の映画の劇中曲を想像させる

ようで(ヨーロッパ映画の雰囲気がします)、彼らの挑戦の最たるも

ので、かつ、普遍的魅力に満ちているのではないだろうか。
 







大きな声で叫ぶだけがロックではない。誤解を恐れずに言えば

ロックは人生を上手に生きれない人間の歌だ。この『ビフォア・

エニワン・ニュー・アワ・ネーム』で青年時代からのバンドメイトで

初代ドラマーの今は亡きスチュワート・ケーブルに向けて、「俺達

どうなった? なるはずだった大人?」と抑揚の効いたトラディショ

ナルなピアノ弾き語りで寂しさを語っている。



21 周年目を迎えても、色々挑戦する彼らに今後とも期待したい。