北欧ミステリーの醍醐味とはなんだろうか?
日経トレンディにある書評ライターの杉江松恋
さんの記事によると、平和な福祉国家のイメー
ジがある北欧ですが、「腐敗した政界、東欧や
アフリカからの移民問題、多発するDV事件、性
差別、児童虐待、労働力または性的対象として
の人身売買など、非常にシリアスなもの」という
ものへの社会批判が根底にあり、刑事が事件
を解決することで、ミステリーでありながら社会
問題を批判するジャンルを確立しているのだ。
当作はデンマークの作家ユッシ・エーズラ・オールスンの人気ミステ
リーシリーズ「特捜部Q」の映画化第3弾で、北欧の権威ある文学賞
「ガラスの鍵賞」を受賞した「Pからのメッセージ」の映画化作品です。
国内上映劇場は、ヒューマントラストシネマ渋谷か、 シネ・リーブル
梅田の2ヶ所だけなので、尚更レア感が高まります。
舞台はデンマーク王国、コペンハーゲン警察。
仕事人間で有能だが少々扱いずらく、過去の事件にて部下を亡くした
経験を持つ主人公のカール・マーク警部補は、復職後、半ば左遷先の
部署として地下室に作られた未解決事件捜査の専門部署「特捜部Q」
に配属され、シリア系デンマーク人の部下アサド、と秘書ひとりだけで
任務にあたっている。(なお、カールは嫁さんに逃げられており、息子さ
んが残されている)
ある日、 新たな捜査依頼が舞い込む。
海辺に流れ着いたボトルの中から「助けて」と書かれた手紙が見つか
ったのだ。手紙は7、8年前に書かれたもので、インクのにじみが激し
く、ほとんど解読することができない。差出人の頭文字「P」を頼りに行
方不明者の割り出しを進めた特捜部Qのメンバーたちは、やがて衝撃
の事実にたどり着く。
実を言うと、本作を見るために前2作を
レンタルしてからリーブル梅田に臨んでき
たのです(笑)が、製作スタッフが「ミレニア
ム ドラゴンタトゥーの女」ということもあり
まして独特の陰鬱さ、と緊張感に満ちた
良質の社会派ミステリーに仕上がってい
ます。EUの基本的理念にある、「多元的
共存、無差別、寛容」の精神が崩れようと
するなか、シリア系捜査官を相棒に懸命
に捜査をする姿は現代への警鐘ですね。
あと、専門外なので少し説明しにくいのですが、北欧はルター派
のプロテスタントの国というイメージがありましたが、作品では地
域コミュニティの新興宗教という構造が悪魔の子を「産み」、誘拐
と、連続殺人を重ねる姿は、福祉とリベラルを取り入れた資本主
義の成功モデルを示したかに見えた北欧の内実は、福祉とリベ
ラルの両立がままならない社会を暗喩しているように思いました。
余談ながら、デンマークはアルコールや薬物の乱用、抗うつ薬の
摂取量が第4位の国とのこと。これをどう解釈するかは別の問題
になるので、横に置きますが、同国が幸福度ランキング1位なの
に、どうして、と気になるところです(詳しい人は教えてください)。
独特の味わいの残る、この冬にお薦めのミステリー作品です。