2016年12月31日土曜日

【書籍推薦:地政学で見るブレトンウッズ体制終焉後の世界】『地政学で読む世界覇権2030』

https://honto.jp/netstore/pd-book_27644245.html

Wikipediaによると、地政学とは地理的な環境が国家に与

える政治的、軍事的、経済的な影響を巨視的な視点で研

究するものである。 イギリス、ドイツ、アメリカ合衆国等で

国家戦略に科学的根拠と正当性を与えることを目的とした。

と、なる。

本書は影のCIAと呼ばれる「ストラトフォー」の元幹部で

分析部門のバイスプレジデントを務めた地政学ストラテ

ジストによる、渾身で骨太、衝撃の世界情勢予測です。




本書を読んで痛感させられるのは、米国という国土の豊饒さ

と、生産財を低コストで運搬可能な河川へのアクセスが多数

存在するという強靭な地理的アドバンテージの恵みだ。他国

の多くが、居住に適した温帯でなかったり、標高差、河川管理

などに国家予算を回さなければならならいため、余剰キャッシ

ュを作りにくい。


米国はこれらの点を自然に(開発なしで)得ており、しかも現代

になるとシェールという天然資源の獲得と、3Dプリンターという

生産技術を組み合わせることで、優位性(生産財の原料供給を

他国に頼る必要がなく、低コストになる)を更に堅固にしている。

彼らはすでに必要なものを全て手に入れているのだ。


結果、予測されるのは米国の繁栄継続と国際政治への関与

率の低下した地球儀だ(完全に引きこもったアメリカです)。


表現を変えると、ブレトンウッズ体制の終焉だ。つまり、第二次

世界大戦時に、戦後は世界各国が自由な貿易を行って繁栄と

平和の基盤を作る一方で、米国が圧倒的な軍事力(特に海軍

のシーパワー投射能力)をもって保護する体制の提供が、徐々

に薄らいでゆき、各国の勢力均衡が崩れ、「次なる戦争」が幕

を開く世界が登場する(各国は自前で生存を戦うことになる)。


地球儀で見る海洋国家と陸上国家


本書の9章から15章にかけ、世界各国の将来情勢予測がされて

おり、これからの地球儀と国際報道を見ていく上での「俯瞰図」に

なると思います。 ロシア、トルコ、パキスタン、などの国が地理的

なデメリットで苦悩する歴史を知るだけでも明日への教養になる

はずです(特に製造王国ドイツが意外な弱さを抱える点など)。


しかし、地政学は民族性やイデオロギーを除外して分析研究・予

測するものなことと、結果予測は戦略の技術ではあるが、戦略作

成プロセス自体ではないことを念頭に読んでほしい。 『ストーリー

としての競争戦略』の一節を借りれば、「機会は外在的な環境では

なくて、自らの戦略ストーリーの中にある」(p.354)であって、米国が

不在になる世界を悲観か楽観かで見ても、答えは出ないからだ。


来年のことを言うと鬼が笑う? 「鬼」の意味は奥深い。


著者は日本が将来(アメリカの世界関与が低下した世界で)、資源

の確保のために、サハリン及び中国東北部へと軍事力を行使する

シナリオを提示しているが、これは米国が相当のモンロー主義的に

なったときの、「可能性としてあり得るオプション」と見るべきだろう。


年越しのコタツのなかで、ゆっくり読むのにお勧めの一冊です。

本年の更新はこれで終わりですが、皆さん、良いお年を!

ありがとうございました。




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