2017年10月28日土曜日

【洋画推薦】米国・女性ロビイストの冷徹な戦略力と銃社会の行方は? 『女神の見えざる手』

http://miss-sloane.jp/
本作品は、天才的な戦略を駆使して米国の政

治を影で動かすロビイストの知られざる実態に

ついて、『恋に落ちたシェイクスピア』のジョン・

マッデン監督が、ビンラディン捜索暗殺作戦で

苦闘するCIA分析官をドキュメンタリーさながら

の臨場感ある迫力で主演した『ゼロ・ダーク・

サーティ』のジェシカ・チャスティンを迎え、鋭く

迫った社会派サスペンスです。(ゼロ・ダーク・

サーティの過去記事はこちらをご覧ください)。









政府を裏で動かす戦略のプロ“ロビイスト”。その天才的な戦略で

ロビー活動を仕掛けるエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)

は、真っ赤なルージュで一流ブランドとハイヒールに身を包み、大手

ロビー会社で花形ロビイストとして辣腕をふるう日々。ある日、彼女

は銃の所持を支持する仕事を断り、銃規制派の小さな会社に移籍

する。全米500万人もの銃愛好家、そして莫大な財力を誇る敵陣営

に立ち向かうロビイストたち。大胆なアイデアと決断力で、難しいと

思われた仕事に勝利の兆しが見えてきた矢先に、エリザベスの赤

裸々なプライベートが露呈され、さらに予想外の事件が事態を悪化

させていく……。


個人や団体が政治的影響を及ぼすことを目的として行う私的活動

をロビー活動といい、米国ユダヤ系団体の「イスラエル・ロビー」や

全米ライフル協会(NRF)は国際報道で耳にすることも多いだろう。



日本では政治家との癒着・贈賄のイメージが強いのか表立つより

も逆に、米国内でのロビー活動の弱さからかトヨタのメキシコ工場

新設に対するトランプ大統領の「口撃」を呼び込んでしまった感じ

もあるが、 逆に米国は3万人ものロビイストがいるとされ、連邦制

と思想の坩堝であることを痛感させられる。





本作で、ジェシカ・チャスティンは本年度

ゴールデン・グローブ賞主演女優賞(ドラ

マ部門)ノミネートに相応しい磨き上げた

演技で、常軌逸脱寸前の天才的戦略ロビ

イストになり、観客を米国政治の裏側の世

界にぐいぐい引き込む。監督や脚本のセ

ンスが、彼女の鬼気迫る演技(睡眠障害

を抱えての仕事魔、恋愛はエスコートサー

ビスで済ませる、味方すら欺く戦略の達

人)に逆に頼っている面白い構成と思う








ラスベガス銃乱射事件もあり、図らずしも銃社会の米国の問題が

提示されたタイミングで日本公開された本作だが、むしろ銃規制

の問題そのものより、生き馬の目を抜くロビー活動の世界で、孫

子が「兵は欺道なり(戦争とは敵を欺くことである)」としたように

主人公が倫理と戦いの法則を分離させ、戦略戦術の達成そのも

のを目的とするかのごとく冷徹非常に遂行させていく姿は、政治

スリラーでの新しいヒロイン像であるし、自分の身は自分で守る

しかない米国の現実を象徴しているのだろう(銃規制派であれ反

対派も、実際の問題として)。



もちろんマキアヴェッリが「必要に迫られた際に大胆で果敢であるこ

とは、思慮に富むことと同じと言ってよい」(フィレンツェ史)と述べた

のように、中世イタリアだけでなく現代米国政治で生き残ろうとする

主人公にとっても権謀術数は「目的が手段を正当化する」ことなのを

痛感させられることは言うまでもないと思う。



この意味で、作品の原題「Miss Sloane」を、「女神の見えざる手」と

意訳したのは見事と思う。本作品は、主人公が張り巡らしていく計

略という名の「見えざる手」が政治権力が生む利潤という社会的な

地位にしがみ付こうとする旧態依然の男達に、「見えざる手」で「女

神」(自由の象徴)が一撃見舞う作品だからだ。



米国政治の裏舞台に興味のある方にもお薦めの作品です。


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