理由があります。戦場にいることの高揚感と
か、戦争という生き方とか、憂慮からとか。私
の理由は、苦しんでいる人々の物語を伝える
こと、そのイメージを政治家に伝えることで
す。私が写真を撮ることで変化を起こす手助
けをしたいのです」(ナショナル・ジオグラフィッ
ク日本語版サイトより)
著者のリンジー・アダリオ氏の職業はフォト・ジャーナリストで
本書は過酷な職業であるなか仕事の幸せも、プライベートの
幸せ(恋愛も結婚も子供も)も諦めなかった彼女の波乱万丈
の半世紀を綴ったノンフィクションです。
写真一枚が10ドルで売れたのきっかけに、フリーの通信員と
して、キャリアを積んでいった彼女は、2000年にタリバン政権
の下にあるアフガニスタンを訪れて以来、イラク、リビア、南ス
ーダンなどの紛争地を取材し、ピュリッツァー賞など数々を受
賞しています。『ニューヨーク・タイムズ』、『ナショナル・ジオグラ
フィック』などに、定期的に彼女の写真が掲載されている。
仕事で拉致された回数は2回、死の危険を感じた事は無数と
ことや、仲間の死、仕事とプライベートの両立など尋常でない
彼女の苦悩を読むと、本の原題「IT'S WHAT I DO」(これが私
のしていることだ)に比べて、邦題の「愛は戦禍を駆け抜けて」
は、タイトルが甘いのではないか、と思えてしまうが、読了後
には、さう表現する他にないと思えてしまう。これは彼女が写
真だけでなく、文章構成力の賜物、いや彼女の生き様だろう。
自分自身の半世紀を書こうとすると、どうしても情緒的になる
嫌いが表れやすいが、彼女は戦場カメラマンという仕事の熾
烈な光景、国際政治情勢の凄惨さ、この仕事に就く人の恋愛
模様に至るまで、冷静な視線の文体で表現しており、9.11後の
世界を見つめ直すことができる一冊にもなっていて秀逸です。
編集者に見限られるのではないか、とびくびくして
いた。(中略)結局、わたしはフリーランスのカメラ
マンで、長年積み上げてきた実績のほかは仕事
の保障などまったくないのだ。それにあの格言が
頭から離れなかった。"きみの評価は最後の記事
の出来次第だ"それが真実であることをたびたび
目の当たりにしてきた。(p.374より)
著者は、アフガニスタンの激戦地の野戦病院で、NATOの
空爆によって顔中に傷を負ったハーリド少年の写真を通し
対テロ戦争の「物語」を捉え、『ニューヨーク・タイムズ・マガ
ジン』の表紙候補にもなったが、米軍との関係悪化を気に
した編集長により中止された経験や、自分が妊娠している
ことを事前通知しているにも関わらず、イスラエルとパレス
チナの国境で何度もX線スキャンされた経験など、読者を
未だ解決されない「愛のなき世界」へと導いてくれる。
また、恐れ知らずの生き方から、苦しいほど熱烈な愛という
もので相手を守るとは一体何であるかを伝えてくれる。
スピルバーグ監督で映画化決定とのことで、 ますますこの
先が楽しみになる、お薦めの一冊です。