2017年1月29日日曜日

【書籍推薦】恋も家庭もキャリアも手にした女性報道カメラマンの半世紀 『愛は戦禍を駆け抜けて』

https://honto.jp/netstore/pd-book_28037423.html戦争写真家が写真を撮るのには、それぞれ

理由があります。戦場にいることの高揚感と

か、戦争という生き方とか、憂慮からとか。私

の理由は、苦しんでいる人々の物語を伝える

こと、そのイメージを政治家に伝えることで

す。私が写真を撮ることで変化を起こす手助

けをしたいのです」(ナショナル・ジオグラフィッ











著者のリンジー・アダリオ氏の職業はフォト・ジャーナリストで

本書は過酷な職業であるなか仕事の幸せも、プライベートの

幸せ(恋愛も結婚も子供も)も諦めなかった彼女の波乱万丈

の半世紀を綴ったノンフィクションです。


写真一枚が10ドルで売れたのきっかけに、フリーの通信員と

して、キャリアを積んでいった彼女は、2000年にタリバン政権

の下にあるアフガニスタンを訪れて以来、イラク、リビア、南ス

 ーダンなどの紛争地を取材し、ピュリッツァー賞など数々を受

賞しています。『ニューヨーク・タイムズ』、『ナショナル・ジオグラ

フィック』などに、定期的に彼女の写真が掲載されている。


仕事で拉致された回数は2回、死の危険を感じた事は無数と

ことや、仲間の死、仕事とプライベートの両立など尋常でない

彼女の苦悩を読むと、本の原題「IT'S WHAT I DO」(これが私

のしていることだ)に比べて、邦題の「愛は戦禍を駆け抜けて」

は、タイトルが甘いのではないか、と思えてしまうが、読了後

には、さう表現する他にないと思えてしまう。これは彼女が写

真だけでなく、文章構成力の賜物、いや彼女の生き様だろう。


自分自身の半世紀を書こうとすると、どうしても情緒的になる

嫌いが表れやすいが、彼女は戦場カメラマンという仕事の熾

烈な光景、国際政治情勢の凄惨さ、この仕事に就く人の恋愛

模様に至るまで、冷静な視線の文体で表現しており、9.11後の

世界を見つめ直すことができる一冊にもなっていて秀逸です。



http://www.huffingtonpost.jp/2016/03/20/lynsey-addario_n_9513390.html
妊娠しているあいだずっと、わたしは出産を機に

編集者に見限られるのではないか、とびくびくして

いた。(中略)結局、わたしはフリーランスのカメラ

マンで、長年積み上げてきた実績のほかは仕事

の保障などまったくないのだ。それにあの格言が

頭から離れなかった。"きみの評価は最後の記事

の出来次第だ"それが真実であることをたびたび

目の当たりにしてきた。(p.374より)










著者は、アフガニスタンの激戦地の野戦病院で、NATOの

空爆によって顔中に傷を負ったハーリド少年の写真を通し

対テロ戦争の「物語」を捉え、『ニューヨーク・タイムズ・マガ

ジン』の表紙候補にもなったが、米軍との関係悪化を気に

した編集長により中止された経験や、自分が妊娠している

ことを事前通知しているにも関わらず、イスラエルとパレス

チナの国境で何度もX線スキャンされた経験など、読者を

未だ解決されない「愛のなき世界」へと導いてくれる。


また、恐れ知らずの生き方から、苦しいほど熱烈な愛という

もので相手を守るとは一体何であるかを伝えてくれる。


スピルバーグ監督で映画化決定とのことで、 ますますこの

先が楽しみになる、お薦めの一冊です。

2017年1月23日月曜日

【書籍推薦:世紀の傑作写真「崩れる落ちる兵士」の真相を追う】『キャパの十字架』

https://honto.jp/netstore/pd-book.html?prdid=25478797 君がいい写真を取れないのは
 

あと半歩の踏み込みが
 

足りないからだよロバート・キャパ


20世紀を代表する戦場カメラマンである本名

フリードマン・エンドレ・エルネーこと、ロバー

ト・キャパが、ユダヤ系ハンガリー人としてブ

ダペストに1913年に生まれ、欧州戦乱、日中

戦争などを経て、1954年に第一次インドシナ

戦争で地雷を踏んで亡くなるまで残した写真

の中で貴方は何を思い起こすだろうか? 




この、スペイン内戦(1936年~1939年)の

前線で撃ち倒される共和国派兵士の最

期を撮ったとされる、『崩れ落ちる兵士

が報道や世界史教育上、戦争の悲惨さ

を捉えた 「イコン」として、最も鮮烈に記

憶に残る一枚と思います。




キャパは機内から次々と運び出される乗組員の負傷者を

夢中で撮りつづけ、最後にパイロットがタラップを降りてく

ると、クローズアップを撮るべく駆け寄る。すると、そのパ

イロットに、痛烈な言葉を投げかけられる。

「これがあんたの待望の写真というわけかい、写真屋さんよ」

(中略)

ここから、キャパの言葉として知られている「いつだって、人の

苦痛しか記録出来ないことは辛いことだった」(p.21)


この痛烈な経験があるからこそ、著者の沢木耕太郎氏は

この「辛さ」はフリーランスのライターとして自分も無縁の

ことでは無かったが、『崩れ落ちる兵士』への関心は元々

深いものではなかった(ただし、沢木氏は学生時代に読ん

だキャパの半自伝的作品をきっかけに深く共感している)。


しかし、あるときリチャード・ウィーランによる初のキャパの

本格的伝記を読んで、翻訳を進めるなかで『崩れ落ちる兵

士』の写真に真贋があるのではとの疑問を持つようになる。


  これはいつのことなのか。

  ここはどこなのか。

  この人物は誰なのか。

  これはどのような状況なのか。

  それをどのように撮ったのか。


沢木氏は数々の写真や文献を分析し、歴史、カメラ、射撃など

の専門家に問い合わせ、フランス、スペインを訪れて、兵士が

倒れたと思われる土地を訪れて調査するうちに、『崩れ落ちる

兵士』が、キャパの恋人であったゲルダ・タローによるものであ

って、『崩れ落ちる兵士』も撃たれていない仮説を打ち立てる。


沢木氏は過去に『テロルの決算』(文春文庫)で、日比谷公会堂

事件で山口二矢が使役されたのではなく、自立したテロリストで

あったのではないかという仮説を立てているが、このような歴史

上のセンシティブな問題に踏み込む著者の「声を持たぬ者の声

を聞こうとする」真摯なアティテュードが今回も発揮されている。


本書はノンフィクションだが、推理小説のようなスリリングさが

あり、もし仮説通りならば、キャパは胸に十字架を背負って戦

場カメラマン人生の残りを生きたであろうことになるが、そのこ

とを声高にして言いにくい世間体があることに読書は向き合う。


なぜなら、『崩れ落ちる兵士』は戦場報道の「イコン」だから。


2017年1月15日日曜日

【洋画推薦:ドローンによる対テロ戦争の内幕と非常さに迫る軍事サスペンス】『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』


http://eyesky.jp/
以前、『ハンター・キラー アメリカ空軍・遠隔操

縦航空機パイロットの証言』の記事でも書きま

しが、空軍力は万能ではない。強力な打撃力と

機動力を持つが、限定的政治目標を達成する

手段として使用されるとベトナム戦争の泥沼化

のように弱点と失敗を露呈しやすい。


本日紹介する最新シネマ『アイ・イン・ザ・スカ

イ 世界一安全な戦場』は現代ドローン戦争の

スリリングな内幕と悲惨さを描いた衝撃的な作

品となっています。




舞台はイギリス、ロンドンから始まる。軍の諜報機関の将校

キャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)は、国防相のフラ

ンク・ベンソン中将(アラン・リックマン)と協力し、アメリカ軍の

最新鋭のドローン偵察機を使い、英米合同テロリスト捕獲作

戦を地下センターより指揮している。


上空6000メートルを飛行する空の目で、相手を切り裂くもの

の名前の意味に相応しく、ヘルファイアー・ミサイルで武装を

したリーパー無人偵察機と、ケニア政府軍の工作員が現場で

操作をする小鳥型と昆虫型のドローンが、ナイロビの隠れ家

に潜むアル・シャバブの凶悪なテロリストたちを遂に突きとめ

る。彼から大規模な自爆テロを決行しようしている映像がイギ

リスのベンソン中将他、閣僚らが集まる会議室のスクリーンに

映し出される。


場所はアル・シャバブの拠点地域で、特殊部隊での捕獲作戦

は不可能なことから、リーパーのヘルファイア・ミサイルによる

殺害任務が提案される。しかし、次の刹那、テロリストの拠点

のすぐ近くでパン売りをする幼い少女が殺傷圏内にいることが

発見され、軍人、英・米の政治家、法務担当官の間で議論が始

まる。


選択肢はテロリスト殺害か? 少女の人命確保か?  



この作品の特徴は、戦争映画ながら舞台

を、兵士が実際に危険にさらされる前線で

なくリーパー偵察機や生物型ドローンから

中継される映像が写し出される、作戦会

議室のスクリーン越しにしていることです。



最悪のなかの最善を探し出すという偽

善際どい戦場のジレンマは、技術革新

の産物、ドローンによって今まで以上の

正義とモラルは何かを、我々に問いかけ




ミサイル攻撃による民間人への周辺付随

被害の発生確率をどこまで落とせるかの

シミュレーションを殺害任務の人道的及び

法的妥当性の根拠にしようとする行為は

数字遊びにすぎないのか? それとも最

悪のなかの最善を選ぶことか?







イギリスを遥か離れた、アメリカ合衆国ネバダ州で無人偵察

機リーパーを操縦するスティーブ・ワッツ中尉は、学生ローン

返済の目的もあり空軍に入隊したが、戦闘経験はまだない。

若者の経済負担が志願理由になっている現代戦の皮肉だ。


彼の戸惑うような表情と、絶対にテロリストを殺害せんとする

キャサリン・パウエル大佐の表情の対比は、戦場における正

義とモラルの対比そのものだろう。また、ベンソン中将はある

政治家に綺麗ごとで揶揄されて、こう答える。


決して軍人に言ってはならない。彼らが戦争の代償を知らないなどと


この言葉が、重い。歴史を紐解くと秀才ロバート・マクナマラは

方程式さえ正しければ正解が得られると信じたが、計算に頼り

すぎて、あのベトナムで敗戦を喫ししてしまったように、この映

画は安易に政治道具として利用される無人航空機が、その方

程式に悲しいまでになっている気がしてならない。

                          

2017年1月8日日曜日

【書籍推薦:ちょっと笑ってお金と仕事と人生のタメになるクレジット会社の舞台裏】 『督促OL修行日記』 『督促OL奮闘日記』

https://honto.jp/netstore/pd-book_26554761.htmlあのシェイクスピアは『ヴェニスの商人』で人間と

借金の凄惨なまでの本質を、「嫌いなものは殺し

てしまう、それが人間のすることか?」 「憎けりゃ

殺す、それが人間ってもんじゃないのかね?」と

表現したが、今回紹介する作品は、クレジットカ

ード会社務めの督促(債券回収)OLのちょっと

笑えて仕事のタメにもなる実録談集になります。
https://honto.jp/netstore/pd-book_27318383.html



「今からお前を殺しに行くからな---」
                      
お客様はそう言うと、プツリと電話を切りました。

でも、私の職場ではこんな言葉を言われるのは

日常茶飯事です。だって、わたしの電話を待ち
 
望んでいるお客さんなんて、この世界には一人

もいないのですから。 (p.13 はじめに)












著者は、運悪くも超氷河期と言われる就職難まっただなか

私大文系でとりたて特技もなく、面接でも上手くしゃべれな

く、やっとクレジットカード会社から内定を得て、よくわから

ないが営業とかさせられるのだろうと軽く考えていたのだが

配属先は、督促(債券回収)のコールセンターだった!!


しかもお客様は「粒ぞろい」の、社内でも問題のある人達。

著者の生き残りをかけた、コールセンターサバイバル生活

を待ち受けていたのは、お客様の「逆切れ」「泣き出す」「死

ぬ」などの支払い拒否の嵐、親族に内緒で借金する人、ダ

ンナの借金を肩代わりする奥様の話など、ワケありばかり

の督促電話の日々だった。


挙句は、返済の代わりに菜園の野菜を送る客の登場(笑)


しばらくして、新人時代の著者は枕一面が鼻血で真っ赤に

染まったり、夜間に発熱して朝には平熱に戻るといった謎

の奇病に襲われて、半年後には体重が10キロも減少する。


こんな気弱な彼女は周囲と比べトホホな回収率の毎日では

あったが、日々独自に編み出したノウハウで、年間2000億

円の債券を回収するまでに成長する。過酷な環境にあって

自分自身と仲間を守るためと日々工夫する姿勢は、プロフ

ェッショナルであることの普遍的要素を感じてします。


著者はある日、武勇伝クラスの先輩に、人から嫌がられる

仕事なのに何で続けるのですか、と質問し次のことを聞か

されます。


信用を失うことは命を失うということに等しい。信用のない人
は救急車だって助けてくれないんだ。 

私たちが相手に嫌われても、怒鳴られても、包丁を突きつけ

られても、催促しなければならないのは、お客さまの信用を

守ることができるから。お客様の信用を守るのはもしかしたら

命を守ることになるかもしれないしね。(p.221)


素晴らしい視点と思う。債券回収の負のイメージを払拭して

くれる、慈悲の心だ。もちろん世間の誰もが督促業務にこの

イメージを持ってくれるのは難しいと思うが、本書は他にもス

トレスや職場環境で苦しんでいたり、理不尽な顧客や仕事と

葛藤するもうひとりのあなたの心を応援してくれるストーリー

としても読めるのです。


話しの合間合間にある、督促OLのコミュ・テクの欄も秀逸!

読むと「へぇ~」と思うし、人間学的な教科書にもなります。


再びシェイクスピアを引用するなら「慈悲は義務によって強制

されるものではない、天より降りきたっておのずから大地を潤

す、恵みの雨のようなものなのだ」(『ヴェニスの商人』)という

ように、優しさや慈悲は自らの人間力とプロフェッショナリズム

より出てくるものだし、皮肉にも不条理(借りた金を返さないで

屁理屈こねるのは不条理以外になし)が与えてくれるようだ。


と、色々と考えさせてくれる、4コマ入りのお勧め文庫本です。



2017年1月3日火曜日

【書籍推薦】人間の尊厳と生命の礎となった図書係り少女の物語 『アウシュヴィッツの図書係り』

以前、『プリズン・ブッククラブ』『ガーンジー島の読書会』

記事で、読書は人間の心の渇きを潤すもの、という話をしま

した。人はパンのみに生きるものにあらずで、今回紹介する

本と併せて、「人間の尊厳と生命力の礎たる読書」企画の三

部作とします。

本作は事実に基づいて構成され、フィクションで肉付けされた

物語りで、著者はスペインの文化ジャーナリストです。



https://honto.jp/netstore/pd-book_27873556.html
1944年、アウシュヴィッツ強制収容所内の第31

号棟は、ナチスが国際監視団の視察を欺くため

表向き穏和な施設として家族と子供たちを収容

していたが、実際は過酷な強制労働と不衛生の

蔓延、朝食はお茶、昼食は微小なスープ、夕食

は破片程のパン、そしてナチス親衛隊の厳しい

監視と、ガス室送りにされる恐怖が過る日々。






大きな目標は持たない。ただ、一瞬一瞬を生き延びる日々


しかし、ここにはナチスの知らない「学校」と「図書館」があった。

ドイツ出身の聡明で勇敢なユダヤ人青年のフレディ・ヒルシュ

によって収容所バラックのなかに作られた「学校」では子供達

への教育が密かに行われている。


ある日、主人公で14歳のチェコ系ユダヤ人のディタは、図書係り

に志願し、任命される。彼女に託されたのは、わずか8冊の本。

彼女は服の内ポケットや、部屋の片隅に所持が禁止されている

本の隠し場所を作り、発見されたら処刑される恐怖と戦いながら

図書を管理する役目を務めて、自分自身も読書で成長していく。


作品内に登場する本が秀逸です。ヤロスラフ・ハシェク『兵士シュ

ヴェィクの冒険』、フロイト『精神分析学入門』、アレクサンドル・デ

ュマの『モンテ・クリスト伯』、H・G・ウェルズの『世界史概観』など。

どの作品も人間の想像力を掻き立てたり、人間の本質に迫ったり

風刺をしたり、反骨精神に富んだ物語を教えてくれるものです。


もちろん、明日は生きるか死ぬのかわからない者たちに教育や

図書を施してどうなるのか疑問視する向きもあるとは思います。


しかし、歴史上の抑圧者が共通して本と教育を奪おうとしたこと

を鑑みれば、読書は人間にものごとを考えることを促す武器にな

る可能性(為政者から見れば危険性)と、言葉と想像力が人間の

尊厳と想像力の礎になっていることを証明している(人権運動家

のマララ・ユフスザイ氏のノーベル賞受賞スピーチもそう)と思う。


本作品は「書籍」「学校」というキーワードを軸としてあり、今まで

のユダヤ民族の歴史に付随しやすい「被害者」「哀れさ」以外の

視点からアウシュビッツの内情を描き、極限の状態でも本を読む

ことの意義を提示した英雄エディタ・アドレロヴァ(ディタ)の姿は

新しいアウシュヴィッツのヒロインと言えるのではないだろうか。

 
この世には、幸福もあり不幸もあり、ただ在るものは、一つの状

態と他の状態との比較にすぎないということなのです。きわめて

大きな不幸を経験したもののみ、きわめて大きな幸福を感じるこ

とができるのです。(中略)人間の叡智はすべて次の言葉に尽き

ることをお忘れにならずに。待て、しかして希望せよ!
『モンテ・クリスト伯』より


世界の平和を願い、読書を愛する全ての人に推薦する一冊です。

本が与えてくれる「贈りもの」の力を再認識させられます。 もちろん

この「贈り物」の力は今すぐ表れるものでないですが、必ずきっと。


2017年1月1日日曜日

【洋画推薦:公営団地から生まれたUKロックスターの軌跡】『オアシス:スーパーソニック』

英国の音楽史上、90年代最後の盛大な「花火」を

打ち上げたロックンロール・バンドは、オアシスの

他に無いだろう。寂れた工業都市マンチェスター

の労働者階級で公営団地出身のギャラガー兄弟

は、失業保険生活の日々から、ある日を境にして

ロックンロールスターの道を駆け上がっていった。


怒れる若者達としてのパンクさながらの荒々しさと

ビートルズ直系のポップさとメロディアスを携えて。




本作品は2009年に解散したイギリスの世界的ロックバンド「オアシス」の

初のドキュメンタリー映画です。「オアシス」の中心メンバーであるリアム

&ノエル・ギャラガー兄弟への新たなインタビューのほか、バンドメンバー

や関係者の証言、名曲の数々をとらえた貴重なライブ映像、膨大なアー

カイブ資料をもとに製作されており、見所は兄弟の「クレイジーなまでの

素行の悪さ」を基調にした、ロックンロールの初期衝動がいまなお現代

において更新され続けている事実だろう。


本当は、お前らバカだろ? と愛嬌を言いたくもなるのですが(苦)


 




1991年に兄ノエルが弟リアムのバンドに加入して「オアシス」が結成されて

から、2日間で25万人(英国人口の4%です!)を動員した96年の英ネブワ

ースでの公演までの軌跡を追っていくうちに改めて、彼らの成功がギャラ

ガー兄弟の絶妙のバランス(最初からバンド解散の内紛を抱えていた)で

構成されていたことを再認識させられる。



作品中に出る、兄弟の下品な4文字言葉が健在なことと、初代ドラマー

のイジメ問題をあっけらかん、と当事者取材で開示したり、日本の現代

著名人が薬物問題で揺れるなか、活動中の「ハッパ」、「覚醒剤」使用を

同じくあっけらかんと公開するあたり、ロックで成功することが当時の貧

困脱出の道であることを逆に痛感してしまう(他はサッカー選手か薬物

の売人になるかの時代とされる)。


本当は、お前らバカだろ? と愛嬌を言いたくもなるのですが(苦)


パンク・ロック顔負けの激しさとジョン・レノン風の声質を兼ね備えた天性

のフロントマン、リアムの歌と、地頭の良さ(ただし悪態を吐くときは弟より

も危険と思う) と、天才的作曲センスのあるノエルが作るメロディーが両

輪となって破天荒に音楽史を突き動かして、聴衆も一体となって応えてき

た、ネブワースまでの軌跡を再現するバンドは再び表れるのだろうか?


作品中の言葉を借りれば、答えはノーと思う。


なぜなら、労働者階級の彼ら悪ガキ的兄弟がインターネットが登場する以

前にもたらした「ロックンロールの初期衝動」と、観客誰もが合唱出来るポ

ップさを兼ね備えた彼らの名曲の数々に対する観客の返答そのものがネ

ブワースだから。(労働者階級のアンセム、ドント・ルック・バック・イン・アン

ガーの「泣きサウンド」は言うまでもないと思います)。


あらゆるUKロック好きにお勧めの作品です。


『オアシス:スーパーソニック』公式サイト