2017年1月23日月曜日

【書籍推薦:世紀の傑作写真「崩れる落ちる兵士」の真相を追う】『キャパの十字架』

https://honto.jp/netstore/pd-book.html?prdid=25478797 君がいい写真を取れないのは
 

あと半歩の踏み込みが
 

足りないからだよロバート・キャパ


20世紀を代表する戦場カメラマンである本名

フリードマン・エンドレ・エルネーこと、ロバー

ト・キャパが、ユダヤ系ハンガリー人としてブ

ダペストに1913年に生まれ、欧州戦乱、日中

戦争などを経て、1954年に第一次インドシナ

戦争で地雷を踏んで亡くなるまで残した写真

の中で貴方は何を思い起こすだろうか? 




この、スペイン内戦(1936年~1939年)の

前線で撃ち倒される共和国派兵士の最

期を撮ったとされる、『崩れ落ちる兵士

が報道や世界史教育上、戦争の悲惨さ

を捉えた 「イコン」として、最も鮮烈に記

憶に残る一枚と思います。




キャパは機内から次々と運び出される乗組員の負傷者を

夢中で撮りつづけ、最後にパイロットがタラップを降りてく

ると、クローズアップを撮るべく駆け寄る。すると、そのパ

イロットに、痛烈な言葉を投げかけられる。

「これがあんたの待望の写真というわけかい、写真屋さんよ」

(中略)

ここから、キャパの言葉として知られている「いつだって、人の

苦痛しか記録出来ないことは辛いことだった」(p.21)


この痛烈な経験があるからこそ、著者の沢木耕太郎氏は

この「辛さ」はフリーランスのライターとして自分も無縁の

ことでは無かったが、『崩れ落ちる兵士』への関心は元々

深いものではなかった(ただし、沢木氏は学生時代に読ん

だキャパの半自伝的作品をきっかけに深く共感している)。


しかし、あるときリチャード・ウィーランによる初のキャパの

本格的伝記を読んで、翻訳を進めるなかで『崩れ落ちる兵

士』の写真に真贋があるのではとの疑問を持つようになる。


  これはいつのことなのか。

  ここはどこなのか。

  この人物は誰なのか。

  これはどのような状況なのか。

  それをどのように撮ったのか。


沢木氏は数々の写真や文献を分析し、歴史、カメラ、射撃など

の専門家に問い合わせ、フランス、スペインを訪れて、兵士が

倒れたと思われる土地を訪れて調査するうちに、『崩れ落ちる

兵士』が、キャパの恋人であったゲルダ・タローによるものであ

って、『崩れ落ちる兵士』も撃たれていない仮説を打ち立てる。


沢木氏は過去に『テロルの決算』(文春文庫)で、日比谷公会堂

事件で山口二矢が使役されたのではなく、自立したテロリストで

あったのではないかという仮説を立てているが、このような歴史

上のセンシティブな問題に踏み込む著者の「声を持たぬ者の声

を聞こうとする」真摯なアティテュードが今回も発揮されている。


本書はノンフィクションだが、推理小説のようなスリリングさが

あり、もし仮説通りならば、キャパは胸に十字架を背負って戦

場カメラマン人生の残りを生きたであろうことになるが、そのこ

とを声高にして言いにくい世間体があることに読書は向き合う。


なぜなら、『崩れ落ちる兵士』は戦場報道の「イコン」だから。


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