以前、『ハンター・キラー アメリカ空軍・遠隔操
縦航空機パイロットの証言』の記事でも書きま
しが、空軍力は万能ではない。強力な打撃力と
機動力を持つが、限定的政治目標を達成する
手段として使用されるとベトナム戦争の泥沼化
のように弱点と失敗を露呈しやすい。
本日紹介する最新シネマ『アイ・イン・ザ・スカ
イ 世界一安全な戦場』は現代ドローン戦争の
スリリングな内幕と悲惨さを描いた衝撃的な作
品となっています。
舞台はイギリス、ロンドンから始まる。軍の諜報機関の将校
キャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)は、国防相のフラ
ンク・ベンソン中将(アラン・リックマン)と協力し、アメリカ軍の
最新鋭のドローン偵察機を使い、英米合同テロリスト捕獲作
戦を地下センターより指揮している。
上空6000メートルを飛行する空の目で、相手を切り裂くもの
の名前の意味に相応しく、ヘルファイアー・ミサイルで武装を
したリーパー無人偵察機と、ケニア政府軍の工作員が現場で
操作をする小鳥型と昆虫型のドローンが、ナイロビの隠れ家
に潜むアル・シャバブの凶悪なテロリストたちを遂に突きとめ
る。彼から大規模な自爆テロを決行しようしている映像がイギ
リスのベンソン中将他、閣僚らが集まる会議室のスクリーンに
映し出される。
場所はアル・シャバブの拠点地域で、特殊部隊での捕獲作戦
は不可能なことから、リーパーのヘルファイア・ミサイルによる
殺害任務が提案される。しかし、次の刹那、テロリストの拠点
のすぐ近くでパン売りをする幼い少女が殺傷圏内にいることが
発見され、軍人、英・米の政治家、法務担当官の間で議論が始
まる。
選択肢はテロリスト殺害か? 少女の人命確保か?
この作品の特徴は、戦争映画ながら舞台
を、兵士が実際に危険にさらされる前線で
なくリーパー偵察機や生物型ドローンから
中継される映像が写し出される、作戦会
議室のスクリーン越しにしていることです。
最悪のなかの最善を探し出すという偽
善際どい戦場のジレンマは、技術革新
の産物、ドローンによって今まで以上の
正義とモラルは何かを、我々に問いかけ
る。
ミサイル攻撃による民間人への周辺付随
被害の発生確率をどこまで落とせるかの
シミュレーションを殺害任務の人道的及び
法的妥当性の根拠にしようとする行為は
数字遊びにすぎないのか? それとも最
悪のなかの最善を選ぶことか?
イギリスを遥か離れた、アメリカ合衆国ネバダ州で無人偵察
機リーパーを操縦するスティーブ・ワッツ中尉は、学生ローン
返済の目的もあり空軍に入隊したが、戦闘経験はまだない。
若者の経済負担が志願理由になっている現代戦の皮肉だ。
彼の戸惑うような表情と、絶対にテロリストを殺害せんとする
キャサリン・パウエル大佐の表情の対比は、戦場における正
義とモラルの対比そのものだろう。また、ベンソン中将はある
政治家に綺麗ごとで揶揄されて、こう答える。
「決して軍人に言ってはならない。彼らが戦争の代償を知らないなどと」
この言葉が、重い。歴史を紐解くと秀才ロバート・マクナマラは
方程式さえ正しければ正解が得られると信じたが、計算に頼り
すぎて、あのベトナムで敗戦を喫ししてしまったように、この映
画は安易に政治道具として利用される無人航空機が、その方
程式に悲しいまでになっている気がしてならない。
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