表題からして、働きかた改革の先駆者としてフ
レックス勤務の合間にサーフィンをしている会社
の経営哲学を想像したが、読んでみると見事に
意表を突かれてしまった。単に僕のアウトドア知
識の無さもあるのだが、パタゴニアは「ビジネス
を手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に
向けて実行する」ことをミッションとする他に類を
見ないアウトドア用品会社であったのだ。本書
は経営学書でありながら、人類・文明・環境保護
論も喝破している稀有な一冊になっている。
著者でパタゴニアの創業者兼オーナーである、イヴォン・シュナード氏
は、鍛冶職人、クライマー、カヤッカーなどいくつもの顔を持つ生粋の自
然遊び人間だ。自分自身ではビジネスマンを誇れる仕事とは思えない、
と評している。しかし、自分自身のアウトドア経験で培われた常に最高
を目指す製品デザイン(ただし流行は追わない)、コストより品質を優先
する製造、利益を目的としない財務会計、売り上げの1%を地球環境の
ために還元し、衣類製品は耐久の限界まで顧客からの修理の要望に
応じるなどビジネス界の常識に囚われない手法でパタゴニアは半世紀
近く生き残り、むしろ栄えてきた史実は、MBAに代表される米国流経営
と間逆であり、思わず賞賛を送りたくなる。
経営書でありながら、内容にアウトドア衣類の原料となる綿畑で使用
される薬剤の一覧を紹介し、これらが如何に自然や人間に悪影響を
及ぼしていることや、そのような工業型農業(米国では航空機で農薬
を散布したり、作業員は防護マスクを着用する)がもたらす温室効果ガ
スの巨大さから、オーガニックコットンを原料に選んでいることを述べる
くだりは衝撃的だ。レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を想起させる。
春が来ても、鳥たちは姿を消し、鳴き声も聞こえない。
春だというのに自然は沈黙している。
経営書でありながら、人類・文明・環境保護論でもある本書のインパクト
は計り知れなtい。もちろん、パタゴニアは初めから環境問題に取り組む
プロであったわけではないし、品質の追求もしかりだ。しかし、本書に満
載されている写真の数々を見るにつれて、大自然で遊ぶ彼らが、環境と
品質追求の道を経営指針としていった理由を痛感させられる。
レイチェル・カーソン女史が警鐘を鳴らしてから、もう随分なるが僕たちは
まだ踏みとどまれるラインにいると思う。本書の『社員をサーフィンに行か
せよう』という題名は同社の中核の一部でしかなく、品質担当の実務担当
者や、研究者、環境経営や自然保護に興味を持つ全ての人にお薦めの一
冊です。
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