この映画は少年期に火傷で損傷した左手を逆
に活かして、神がかり的な速弾き演奏で人気を
博したベルギー生まれのロマ、ジャンゴ・ライン
ハルト(1910年~53年)という、天才的なジャズ
ギタリストの知られざる姿を、第2次世界大戦
中のナチス・ドイツによるロマ民族への迫害を
絡めて描き上げた作品だ。米国のスイングとジ
プシー音楽を融合させた独特なジャズは、後の
様々なミュージシャン(B.Bキングなど)に影響を
与えている。
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■映画と音楽の過去推薦記事
● 若返ったリアムの現代版クラシック・ロック・ソロアルバム 『AS YOU WERE』
● 英国の国民的ロックバンド、ステレオフォニックスが奏でる米国南部の薫り
● 洗練されたサザン・ロックアルバム 『ウォールス』
● 映画 冷徹な女性ロビイストの闘い 『女神の見えざる手』
● 映画 公営団地から生まれたロックスターの軌跡 『オアシス:スーパーソニック』
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舞台は、ドイツの占領下にあった1943年のフランスが舞台。
パリの劇場で超満員の観客を熱狂させるシーンから始まる。
しかし、戦時下の欧州にあって、ナチスはプロパガンダでジ
ャンゴのベルリン公演を立案する一方で、優等人種政策に
基づく民族浄化の矛先を、ユダヤ人だけでなくロマへも向け
始めていき、当初は戦争に無頓着であったジャンゴの意識
は変わっていく……。
生き延びるためにナチス・ドイツのお抱えミュージシャンとして
自我を殺すこともできるが、民族の仲間を迫害しているドイツ
兵の前で演奏などしたくない、という二律背反の苦しみのなか
彼はスイスへの脱出を決意する。
演奏シーンを鑑賞して感じたことは、ジャ
ズの源流たる黒人音楽のブルース(ブ
ルー・ノート・スケール)が持つ反骨精神の
すざましい力だ。この憂いを帯びた感情を
明るく表現する音色は70年代のロックで、
レッド・ツェッペリンがブルースのパワーの
究極的表現として成功したことが有名で
すが、この作品にはナチス高官の前で演
奏するジャンゴの反骨心と観客も踊り始
める演出があり、音楽に国境なしと思わ
ず、ニヤリとさせられ、愉快で見ものです。
ジャンゴを演じている、アルジェリア系フランス人の俳優
レダ・カティブが本人になり切ったかのような奔放なまで
の熱演、お見事です。 面長で口髭が似合っており、今後
も、歴史系のクラシック作品などで才能を発揮して欲しい
と思います。口髭の演技が似合っている俳優は、名探偵
ポアロを演じたデビット・スーシェ、『ダラス・バイヤーズ・ク
ラブ』のアカデミー賞男優マシュー・マコノヘイ以来、久しい
気がします。
余談ながら、彼はあの「ゼロ・ダーク・サーティー」に脇役
出演していたとのこと。長い下積みが実を結びましたね。
不世出のジャズギタリストの生き方と、ナチスの民族浄化
の残忍さ、ジャンゴを取り巻く女性(芯の強い彼の母親と
一所懸命で従順な妻と、 ミステリアスで我の強い愛人)の
何とまぁ、と思わせるたくましさが織り成され、最後に迫害
されたロマ民族への鎮魂歌へと昇華していく、見事な音楽
史映画の誕生ではないでしょうか。
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