店主の麻野が和洋中で織り成す手作りスープが
人気のスープ料理屋「しずく」には、店主のとあ
る思いで秘密で提供している早朝の営業時間が
あった。早朝出勤の途中に、店を偶然知ったOL
の奥谷理恵(おくたに・りえ)は、すっかりこの店
のスープの虜になる。
彼女は最近、職場での対人関係がぎくしゃくし、
大切なポーチの紛失事件も起こり、ストレスから
体調を崩しがちだったが、店主でシェフの麻野
は、彼女の悩みを見抜いて、見事にことの真相
を解き明かす。
ここから身も心も解してくれるスープ料理の数々
と様々な人間模様とミステリーがオムニバスで
織り成されていくのだが、店主の麻野暁(あさ
の・あきら)には言葉では言い尽くせない過去が
あった……。
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【料理・食材関係の推薦過去記事】
● 小説 天見ひつじ 『深煎りの魔女とカフェ・アルトの客人たち』
● 漫画 里見U 『八雲さんは餌付けがしたい』
● 小説 辻仁成 『エッグマン』
● ノンフィクション G.ブルースネクト 『銀むつクライシス』
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最近は、三菱商事の社内ベンチャーとして始まったスー
プストック・トーキョーの全国展開と共に、「スープのある
1日」という概念がブランドとして定着した感があるなか
本書はポップな小説ながら、料理の薀蓄、栄養学、育児
問題、狩猟とジビエ、地場野菜など、様々な参考文献を
しっかりと下敷きにして、思わずスープが食べたくなる描
写と、人の複雑な苦しみや悩みが解きほどけていく過程
を織り合わせることで、上質の娯楽作品に仕上がってい
ます。
登場するスープも「ジャガ芋とクレソンのポタージュ」「ソー
セージのポテ」「ロードアイランド風クラムチャウダー」など
読んでいる傍からレストランに行きたくなる品書きの数々。
本書は色々な謎解きが出てきますが、店主の麻野さんは
決して探偵ではなく、お店に関わる人たちの声を聞き、日
々最高のスープ料理を提供することで、誰かのパワーに
なろうとする存在なのがポイントです。彼自身、「どんな複
雑な味のスープにもレシピは存在する。つまりどんな結果
にも、かならずそうなった理由が存在する」と、知識と経験
の両方で問題解決が出来る人なのですが、謎や人の悩み
に深く入りすぎないように気を配っていて、逆にそれが本作
の味わいを引き立てています。
どうして朝食なのか? 理由は本を読んでもらうとしてそこに
あるのは、紛れもなく忙しく現代を生きるわたしたちがこころ
のどこかで求めている「宿り木」のある朝なのかもしれない。
本書はそんな人の悩みを癒すハートフルさに満ちています。
奥谷と店主・麻野の関係など、これからの進展が楽しみな作
品です。
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