2017年11月3日金曜日

【書籍推薦】開化期の函館の人々の心情を描く、群像時代小説 『鳳凰の船』

https://honto.jp/netstore/pd-book_28595095.html
開化期の日本を司馬遼太郎が、「少年の国、日

本」と表現し、不慣れながら、「国民」になった日

本人は、日本史上の最初の体験者として、その

新鮮さに高揚したとし、その痛々しいまでの高揚

感がわからなければ、この段階の歴史はわから

ないとしたが、本作は江戸から明治へ姿を変えて

いく北海道・函館を舞台に、その二つの時代の狭

間で生きた人々の思い--逡巡、悔恨、決意--を

見事な端正な文体で浮穴みみ氏は描いている。 







 


本書は磨きぬかれた五篇の短編時代小説集で、このような

短編集の場合、音楽で例えれば「遊び曲」な作品もあるもの

なのですが、全編力作で、かつ、切り詰めた文体で開発途上

の函館を、老いた洋船大工の情熱や、英国商人に仕えた女

性がほろ苦く自分の若いころを回想する話、北海道庁の初代

長官・岩村道俊の開拓への決然たる意思や、欧米式の土木

工学を学んだ下級役人が見た時代がもたらす悲哀などの様

々な人間ドラマの視点を通して描いており、 目裏にじんとくる

読了感があります。



正に短編時代小説の醍醐味と手本、と言ったところでしょうか。



著者の浮穴みみ氏は北海道出身で、平成30年には北海道が

命名150周年になり、胸中に色々な思いが交錯するなか執筆

したであろうことと思います。開墾者精神、西洋式教育で変化

する日本人の心の機微、新天地に夢を抱くも時代の流れに翻

弄されるヨーロッパ人の悲哀など、司馬先生とは異なる視点で

あの「痛々しいまでの高揚感」の時代を生きて「豊穣なる大地」

の礎となった明治人の姿が訴えかけてくるかのような作品です。


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