舞台は1970年代のアルゼンチンで、寄宿学校の
教員募集の広告記事を見て応募した、イングラ
ンド南部の農村生まれで、旧英国植民地出身の
両親を持つトム・ミッチェル氏は、幼少期から動
物と自然への愛と、未知なる国への好奇心を育
んできた。
ある夜、ウルグアイの海岸で偶然にもタンカーの
石油流出事故で苦しんでいたペンギンを彼は助
け、寄宿学校の屋上で暮らすようにしたことから
心温まる日々が始まっていく……
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【動物/自然系ノンフィクションの過去記事】
●『ジャングルの極限レースを走った犬 アーサー』
●『羊飼いの暮らし』
●『社員をサーフィンに行かせよう』
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絶妙の時代背景のなかで起こった、感動のノンフィクションと思う。
なにしろ、フォークランド紛争勃発前で、ファン・ペロン大統領政権
の下、殺人や誘拐は日常茶飯事、急激なインフレ経済、国民は秩
序を回復させるには軍部が動くしかないと思っているとされた状況
下のアルゼンチンで起こった、ひょうきんなペンギンと飼育に悪戦
苦闘する著者、そして学校の生徒達や、南米の大自然と「なんとも
おおらかでユーモラス」なストーリーの数々に微笑まざるを得ない。
このペンギンに『かもめのジョナサン』のスペイン語版『ファン・サル
バドール・ガビーダ』を思わず拝借し、ファン・サルバドールと命名
するくだりや、ペンギンが寄宿舎のプールを泳いだことをきっかけ
に、劣等感で苦悩する生徒が優等生に変化したくだりは、本書の
邦題『人生を変えてくれたペンギン』に相応しい。もちろん、ファン
・サルバドールは、ジョナサンのように人生の高みを目指して修行
に勤しんだりはしないが、仲間が大勢亡くなった石油流出事故を生
き延びて、先の見えない暗い時代に、著者だけでなく、周囲の人々
に心休まる時間を与えて、心のなかの何かを変えた意味では、癒し
系ペンギン版のジョナサンと言って良いだろうか。
著者は本職作家ではないので、決して技巧的文章ではありません
けども、ファン・サルバドールと過ごした日々を振り返る彼の眼差し
は実に優しく、動物と地球への愛情に満ちている人なのがありあり
と感じられます(著者は現在、農場経営と趣味で鳥の絵を描く日々
を過ごしているとのこと)。
水族館が好きな人、すべての自然を愛する人にお薦めの一冊です。
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