英蘭戦争に揺れる17世紀オランダ。若き職業画
家ヨハネス・フェルメールとのちに微生物学の礎
となる科学者アントニー・レーウェンフックは、港
町デルフトで、夢目指して動く日々。しかし、陶器
の名産地であるこの町で、陶工が次々と姿を消
す事件が発生する。
ある日、フェルメールとレーウェンフックのふたり
は、運河に長い棒を突き刺して渡る遊び(後の
フィールトヤッペン競技)の最中に対岸で、遺体
を発見する……。
最初は本を手にしたときは、「光の魔術師」、「微生物学の父」という
海の遥か彼方にあるヨーロッパの歴史上の大人物を日本人作家が
どう動かすか非常に気にしましたが、芸術ファンを堪能させてくれる
要素(あの名画たちの原風景)と、フェルメールとレーウェンフックの
時を越える友情、オランダ東インド会社の隆盛などの史実を盛り込
みながら、最後の謎解きへ収束していく過程は精緻で、良質の青春
アートミステリーに仕上がっています。
思わずにんまりとしたのは、著者が少年時代のフェルメールをガキ
代将で子分に取り巻かれていたと表現し、青年になってからは幼馴
染(元・子分)と酒を交わして、次の瞬間、運命の恋に落ちるという設
定です(しかし、これが一癖も二癖もある事情が付いた恋なのですが
元来オランダは自由・個人主義・国際市場を生きてきた国柄ですし)。
こんな彼でなければ、あんな観察力と感性のある作品は不可能だと
思わず想像の世界で納得させられてしまいました。また、上手なタイ
ミングで、後に彼が「微生物学の父」と言われる若きレーウェンフック
の観察力が発揮されるシーンが挿入されたり、日本やオリエンタリズ
ムとオランダの関係が終盤で自然に絡んでくる話のくだりは見事です。
ところで、フェルメールとレーウェンフックの友好・交流を示す記録文章
は存在していませんし、間接証拠止まりですが、フェルメールの作品を
鑑賞する前に、この小説を読んでおくと、また違った新鮮な感覚で楽し
めると思います。
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