2017年10月15日日曜日

【書籍推薦】シンプルこそ難しいが素晴らしい人生と卵料理 辻仁成『エッグマン』

https://honto.jp/netstore/pd-book_28680126.html
元ECHOESの作詞・作曲・ボーカルの辻仁成さ

んが初めて手がける料理小説です。芥川賞受

賞作品『海峡の光』では、元いじめられっこの刑

務官と、元いじめっこの受刑者という、人生の暗

流と未来を描かれてましたが、この作品は元コッ

クの主人公が作る卵料理を通して、人生の愛お

しさと温もりがポップに伝わってくる一冊になって

ます。

創作の拠点をパリに移して15年、気負わずに軽

妙洒脱に書くようになったか、と思いました。









元料理人のサトジは一目惚れした相手のマヨと、12年ぶりに再会。

彼女は離婚を経験し、娘と二人で静かに暮らしていた。別れの理由

は夫の横暴なふるまい。このことが娘のウフの心の傷になっている。 

決して豊かとはいえない母娘の暮らしだが、スーパーで偶然出会った

サトジとマヨはひょんなことから卵料理をめぐる人生の渦に運ばれな

がら、ふたりの共通の行き着けの居酒屋で顔を合わせながらなんとも

用な関係を育んでいく……



ECHOESの時代は名曲『ZOO 愛をください』のようにシニカルな表現

をしていた人が、不器用な男を主人公にしてまわりの人間に温もりを

もたらす作品を書いているので、一気に感心して微笑みながら読んで

しまいました。物語の中心に出てくる卵料理も決して超絶技巧でない

と、作れないものではないし(技巧に越したことはないが) 、むしろそ

のことが、人生も料理もシンプルこそが難しいが、ここに幸せがある

んだ、ということを心と食欲(読んでいるだけで食べたくなる)に伝える

短編連作エンターテイメントになっています。



表紙の主人公の作画は、オノ・ナツメさん。欧米風の漫画を描いたら

彼女の右に出る人はいないと思います。そして、日本を離れてフラン

スに創作の場を移した辻さんですが、パリの同時多発テロ後も、 誰が

誰となく自由を求め「カフェに行こう」と市民たちが声を掛け合う姿など

を見たりして湧き上がってきた人生観は色々あると思います。


例えばマヨの元旦那さんが、粗暴でありながら、心根は粗暴ではなく

逆に娘のマヨが、その時がいつか来たならお父さんに会いたいと話

すくだりがあるのですが、これは素直な意味でシングルファーザーと

して生きておられる辻さんの優しい背姿を思い起こさせます。


どうやら、この作品はフランスから日本へと不器用な優しさと寛容さ

の風を届けようとする一冊であるかもしれないですね。

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