2016年10月23日日曜日

【書籍推薦】サスペンス映画を見ているような水産資源密漁のルポルタージュ 『 銀むつクライシス 「カネを生む魚」の乱獲と壊れゆく海』

世界の漁業総生産量(漁獲・養殖)量は、世

界食料機構(FAO)の統計によると、2007年

の140.7万トンから、2012年には158.0トンと

新興国の成長などを背景にして着実な増加を

続けている(11%UP)


人間の食欲が生態系を破壊する最前線では

何が起こっているのか? 残念ながら合法的

な話を期待するのは厳しいのが現実なのだ。

秋刀魚やクロマグロの乱獲などなど。









本書は海洋食糧資源の密漁をテーマにしたスリリングなノンフィク

ションです。


2003年の8月、南極大陸にほど近いインド洋の南西部のハード島

の近海でオーストラリア税関の巡視船がマゼランアイナメの密漁

船を発見した。逃げだす密漁船と、追跡を開始する巡視船。二者

の攻防戦は南氷洋を越え、なんと南アフリカ沖大西洋までに及ぶ

のだった。


約4000海里20日間にわたった、この一大追跡劇の裏側にあった

ものの正体は何であったのか?


タラのような口当たりで、マグロのように脂肪がたっぷり。
カレイのようにマイルドで嫌味のない風味。豊富な脂分の
おかげで、バターのような食感がある。口のなかでとろけ
そうな白身の肉で、しかも「魚臭さ」はまったくない (同書p.19)

















77年代のある日、米国の水産物マーケッターに価値を見出された

この魚、銀ムツ(マゼランアイナメ)は地元チリの漁民も使い道なし

として、南極海周辺の深海でひっそりと暮らしてきたが、存在価値

は、「チリ・シーバス」と名付けられてから急変してしまった。



先に述べた食材としての優秀さから、米国の中華レストランを皮切り

にして、米国セレブ御用達の一流レストランの人気メニューになるほ

どの一躍流行の食材となったのだ(供給が追いつかない程だった)。


  
しかし、海底の魚である銀むつは容易く捕獲されやすい。94年頃に

なるとチリでの漁獲量が激減してしまい、違法漁業船団は飢えた狼

のように他の海域に進出して「侵略」を続けていく。



すべては市場の胃袋を満たして、お金にするため。



手に汗握る南極近海から南アフリカ近海までの追跡戦、海洋研究者

の話、メロを人気食材にした企業のマーケティング、密漁容疑者との

法廷闘争など著者の幅広い取材に基づく内容は、ノンフィクションで

ありながら、さながらサスペンス映画のように手に汗握らせて、読者

を様々な世界の舞台裏に連れて行ってくれると思う。



人間の食欲が生態系を破壊していく事実を突きつけながら。


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