Wikipediaによると、地政学とは地理的な環境が国家に与
える政治的、軍事的、経済的な影響を巨視的な視点で研
究するものである。 イギリス、ドイツ、アメリカ合衆国等で
国家戦略に科学的根拠と正当性を与えることを目的とした。
と、なる。
本書は影のCIAと呼ばれる「ストラトフォー」の元幹部で
分析部門のバイスプレジデントを務めた地政学ストラテ
ジストによる、渾身で骨太、衝撃の世界情勢予測です。
本書を読んで痛感させられるのは、米国という国土の豊饒さ
と、生産財を低コストで運搬可能な河川へのアクセスが多数
存在するという強靭な地理的アドバンテージの恵みだ。他国
の多くが、居住に適した温帯でなかったり、標高差、河川管理
などに国家予算を回さなければならならいため、余剰キャッシ
ュを作りにくい。
米国はこれらの点を自然に(開発なしで)得ており、しかも現代
になるとシェールという天然資源の獲得と、3Dプリンターという
生産技術を組み合わせることで、優位性(生産財の原料供給を
他国に頼る必要がなく、低コストになる)を更に堅固にしている。
彼らはすでに必要なものを全て手に入れているのだ。
結果、予測されるのは米国の繁栄継続と国際政治への関与
率の低下した地球儀だ(完全に引きこもったアメリカです)。
表現を変えると、ブレトンウッズ体制の終焉だ。つまり、第二次
世界大戦時に、戦後は世界各国が自由な貿易を行って繁栄と
平和の基盤を作る一方で、米国が圧倒的な軍事力(特に海軍
のシーパワー投射能力)をもって保護する体制の提供が、徐々
に薄らいでゆき、各国の勢力均衡が崩れ、「次なる戦争」が幕
を開く世界が登場する(各国は自前で生存を戦うことになる)。
地球儀で見る海洋国家と陸上国家 |
本書の9章から15章にかけ、世界各国の将来情勢予測がされて
おり、これからの地球儀と国際報道を見ていく上での「俯瞰図」に
なると思います。 ロシア、トルコ、パキスタン、などの国が地理的
なデメリットで苦悩する歴史を知るだけでも明日への教養になる
はずです(特に製造王国ドイツが意外な弱さを抱える点など)。
しかし、地政学は民族性やイデオロギーを除外して分析研究・予
測するものなことと、結果予測は戦略の技術ではあるが、戦略作
成プロセス自体ではないことを念頭に読んでほしい。 『ストーリー
としての競争戦略』の一節を借りれば、「機会は外在的な環境では
なくて、自らの戦略ストーリーの中にある」(p.354)であって、米国が
不在になる世界を悲観か楽観かで見ても、答えは出ないからだ。
来年のことを言うと鬼が笑う? 「鬼」の意味は奥深い。
著者は日本が将来(アメリカの世界関与が低下した世界で)、資源
の確保のために、サハリン及び中国東北部へと軍事力を行使する
シナリオを提示しているが、これは米国が相当のモンロー主義的に
なったときの、「可能性としてあり得るオプション」と見るべきだろう。
年越しのコタツのなかで、ゆっくり読むのにお勧めの一冊です。
本年の更新はこれで終わりですが、皆さん、良いお年を!
ありがとうございました。
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