2016年12月2日金曜日

【書籍推薦:2016年度ノーベル文学賞ボブ・ディランの源流本】 ジャック・ケルアック 『オン・ザ・ロード』



近所のガーデンの隠れるような小道で綺麗な花が咲いていた。

人生の路上(ロード)は至るところに枝道がある






魯迅は小説『故郷』の結びで有名な、「思うに希望とは、もともとあるもの

とも言えぬし、ないものとも言えない。 それは地上の道のようなもので

ある。 もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になる

のだ」と、言った。


けど、「道」(ロード)の奥深さは近代中国文学に限らない。


本日紹介するのは、「Simple」読書会大阪に参加したときからの一冊

で、あのノーベル賞授賞式不参加のボブ・ディラン氏が「僕の人生を

変えた本」と言う、ジャック・ケルアックの小説「オン・ザ・ロード」です。

話は著者の自伝的内容となっている。



時は60年代のアメリカ。経済的には何不自由ない生活と中産階級

とホワイトカラー層の厚みが広がり始めた時代ですが、若者たちは

この現況に背中を向けるカウンターカルチャーの扉が開いた広大な

アメリカ大陸を、語り手である若い作家のサルとその親友のディーン

は、叛逆的に自由を求めてヒッチハイクなどで疾駆する。






彼らはニューヨークからサンフランシスコへ、黒人音楽の聖地で

あるニューオリンズへ、果ては大陸を南下してメキシコ・シティへ。

自由のまま、行き当たりばったりで、まるで季節労働者(ホーボ)

のように流れて移ろいゆく路上(ロード)の男の人生が描かれる。

飲んだり、語ったり、ジャズに、行きずりの恋やセックスをしたり。


終盤のある晩、マディソン街の角で、朝の三時に彼らは話し込む。


「なんでも好きなことをやっていい、そんなのはこれっぽちも気にならない
ってな。でもな、おい、年取ってくると、気になることが積みあがってくる。
いつの日か、おまえとおれは夜明けによろよろとそこらの路地にさまよい
こんでゴミの缶をのぞくことになるんだよ」

「かもな。なりたきゃ、もちろん、なれる、そういうことだ。そういう終わり方
も悪くないよ。政治家とか金持ちといった他人どもがなにを望もうが、そん
なのとは関わりなしで一生生きる。だれも邪魔しない、すいすいと自分の
道を進めるぞ」 ( p.400 )


この小説は、ストーリーというよりも、アメリカの叙事詩のような

気がする。リスクを取って開拓民が土地を開き、時代は流れて

戦後の若者たちは、既存に囚われずに「自分の内にある何か」

を開拓していく。何だってできる、自分達でやる、というロックン

ロールな精神(パンク精神)の源流と、冗長ながらも、広大なアメ

リカ大陸の情景を映し出す文章は、なんとも広大で不思議な魅

力に満ち溢れている。


正直、どの章から読んでも悪くないと思う。


主人公達は、昔に奴隷を脱した黒人たちががギターとブルーズ

を携えて悠々として旅していたような原初的な光景に憧れてたの

だろうか、と思ってしまった(奔放さの中にあるものこそ人間性の

解放であるという思想だろうか)。


働き方改革が叫ばれるなかで、「路上」(ロード)で生きる男たちの

姿は僕らを旅に誘うし、何か覚悟に似たものを迫らせる気がする。



2 件のコメント:

  1. おはようございます。

    原作は未読ですが、映画は観ました。
    映画は原作ファンからかなり厳しい評価を受けた様ですが、
    私は決して嫌いな映画ではなかったので
    原作の方もいつか読んでみたいと思っています。

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    1. こんにちわ。

      僕は逆に映画版を観てないので、観てみようと思います。
      最近、予告動画をYouTubeで発見して、気になっていて。
      原作はヒッピーのバイブルともされているようですが、
      結構手強い作品なので、さもありなんだなと感じました。

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